§おまけの詩§

□身長差の恋 見上げれば足元不用心
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「それでねぇ、温海ったら跳べっていってるのに突進しちゃってさぁ―――」
「あっ!!萌あぶなっ!!」
「へ?えっ……ぎゃあああああああああっ!!」
「…あーあ……」

緑花と会話するのに夢中になってた私は、見事、唐突に位置の変わったドブに、脚を嵌めてしまったのだった。



【身長差の恋】  見上げれば足元不用心



私はずぶ濡れに汚れに汚れた右足を重たく引き摺りながら、道を進んでいく。
私の歩いた所には、汚れた右足だけの足跡が続いていく。
歩く度に水分を吸った靴下とスニーカーが、グズグズと水音を立てて、より私の不快感を高めていくのだ。
「……大丈夫?」
「大丈夫ッ!!」
「……でも、足引き摺ってない?」
「…平気ッ!!」
私はズリズリグズグズと音を立てていきながら、帰り道を進んでいった。
だって、全部全部悪いのは私じゃなくて…今後ろにいる奴なんだからっ!!

後ろにいる奴――柏原緑花(かしわばら りょか)は、私とは小学校3年生の頃からの、割と長い付き合いだ。
昔は小さくてか弱くて、女の子みたいに可愛かった緑花は、高校生となった今や、私との身長差は30cmもある長身になっている。
いや…私が高校生にしては小さいっていうのもあるけれど…。
兎に角、お陰で私は緑花と立って話す時、必ず見上げなければいけないのだ。
家は割と礼儀はしっかりしてる所だから、小さな頃から話す時は相手の目を見てっていうのが癖になってて…。
其れが、災いしたらしい。
緑花の、男にしてはやや大きくて睫も長い、綺麗な茶色い瞳ばかり見ていて、足元を気にしていなかった。
いや、この道は毎日下校に使っているから、油断していたというのもあった。
「…まさか、排水溝の蓋が、開いてるとはねぇ…」
まるで私の考えを読み取ったように、緑花が呟くように言った。
私はギッ、と…其れはもう物凄い殺気を篭めて、緑花を睨みつけた。
「そうよっ!!別に私がドジとかノロマとかじゃないっ!!つか私は被害者だっ!!訴えてやるーっ!!」
「…誰を?」
「排水溝を開けっ放しにした奴と…緑花ッ!!」
「なんでっ!?」
あぁもう、兎に角許せない!!腹立たしいっ!!苛立たしいっ!!
私は憤慨しながら、右足を引き摺って更に道を進んでいく。
そんな私を、緑花はジッと鋭い視線で睨むように凝視してくる。然も、右足を。
「…萌、大丈夫じゃないよね」
「…だっ、大丈夫だってばよ…」
「モノマネしても駄目。声似てないし」
「うるへ」
と、お茶目☆に返すものの…正直、大丈夫じゃない。
私の右足はさっきからズキンズキンと痛んで、正直もう歩きたくない。
多分、ていうか絶対…排水溝に嵌る時に捻ったか、何かした。あんまり痛いんで、何で痛いのかも分からない。
あぁもう、今日は災難だ。
それもこれも全部…
「…緑花が大きいから悪いんだ」
「へっ?俺のモノ大きいって、見た事あったっけ?」

バキィッ!!!

「お前は何の話をしてるんだっ!!なんのっ!!」
「……ごめ、なさ…」
私は緑花の予想外の発言に、耳まで真っ赤にしながら緑花の頭を打った。
緑花は頭を抱えて蹲っている…。アンタが悪いんでしょ。
やっぱり、高校生ともなると…男友達との付き合いで、どうしても下に走ってしまうのね。
あぁ…懐かしき純白の日々…、とか今を憂れいていると、唐突に体がフワリと浮いた。
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