捧げもの
□夜遊び
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ショッピングモールを出たフォックスはタクシーを拾うため、道中でタクシーが来るのを待った。ジャケットのポケットに手を入れながら様子をうかがう。しかし、来るタクシーは満車ばかりで空車の表示がほとんどない。諦めて駅まで歩こうとした時、一台の蒼のスポーツカーがフォックスの前に止まった。勿論タクシーではない。
窓が音を立てて開き姿を現したのは、左目に眼帯をした見覚えのある顔立ちの狼、ウルフ・オドネルだ!
「よお、迷子かい? フォックスさんよ」
くわえタバコをしながらウルフはからかうように言った。
「よく俺だって解ったな」
「長年戦ってきた奴の顔なんて忘れねえよ。ところでお前一人で何してるんだ?」
「気まぐれでショッピングモールに暇つぶしに、今帰るのにタクシーを拾うところだ」
「ちょうど良い、乗ってけ。どこまでも付き合ってやる」
「そいつはありがたい、金もかからないし」
「誰がタダと言った?」
「えっ?」
「俺の夜遊びに付き合うのが条件だ」
フォックスは迷った。このままタクシーに高いお金を払ってタクシーを拾うか、それともこのままウルフの要件を呑むか。
「わかったよ」
「物わかりの良い奴だ」
結局は金銭的な理由で決めたフォックスだった。少しでも節約をする方が得だと思ったからだ。助手席のドアが開き、ウルフが手招きをする。フォックスはゆっくりと助手席に腰を降ろした。
「おい、尻尾挟まねえように気をつけろ。ヘタすりゃその可愛い装飾品が赤く染まっちまうからな」
装飾品と言われてフォックスはバツの悪そうな顔をする。だが、ウルフはそんなフォックスに見向きもせずアクセルを踏んだ。同時にフォックスの体が慣性力によって後ろへ引かれる。
「何か希望はあるのか?」
「俺は最終的に軍の基地まで行ければいい、それまではウルフの好きなように頼む」
ウルフは先程よりアクセルを強く踏んだ。
「ウルフ、このスポーツカーはどうしたんだ?」
「これはパンサーからの借り物だ、ボンネットに薔薇が描いてあったが。俺様にそんなのは性に合わねえから塗りつぶしたんだよ」
「ウルフも身勝手だな、パンサーが怒るんじゃないのか?」
「対策はしてある」
ウルフの質問に受け答えしながらフォックスは流れて見える街に風景に目をやる。
「どこへ向かってるんだ?」
「何処だっていいだろ、お前が好きにしろと言ったんだから」
「……まあ、良いよ」