捧げもの
□夜遊び
6ページ/9ページ
スポーツフロアの内の一つであるゴルフ場に到着した二人。ここは唯一の別館で、屋外タイプのゴルフ場である。周りはネット張りしており、10ホールと公式ルールよりは少なめだが、誰でも気軽に本格ゴルフが楽しめるとガイドブックに書いてあった。
「用具はすべてレンタルだ、金は俺が出してやる」
「悪いなウルフ」
「大した事ねえよ」
ウルフは受付カウンターへと足を運んだ。フォックスは近くに会ったソファーに腰をかける。近くにあるテーブルから飴玉を一個取り、口に放り込んだ。レモンの酸味が口全体を支配する。と、同時にウルフが二つのゴルフバッグを背負ってフォックスのもとにやってきた。
「ウルフ、重そうだな」
「なら、持ってくれ」
「分かった」
フォックスは自分の分のゴルフバッグを背負った。ゴルフ場には家族連れもいれば、いかにも成り上がりという感じの中年男性が女性を数人連れてゴルフをプレイしている。フォックス達は一番ホールのティーイングラウンドに立った。
「第一打はコインの裏表で決める」
「コイン投げるの苦手だからウルフやって」
「しょうがねえな、裏表決めるのはお前だからな」
ウルフが財布からコインを取り出しどっちが裏か表か説明する。そしてウルフはコインを親指ではじいた。ウルフの手にコインが収まったと同時にフォックスは「裏」と答えた。結果、見事に裏だった。
「運が良いなお前」
「何となく当たっただけだよ、ここの規定打数は6だって」
「結構多いな」
フォックスは小さなプラスチックケースの中に複数入っているティーを一本取り出し、地面に刺した。ゴルフバッグから一番アイアンをとボールを取り出し、ボールをティーの上に置いた。フォックスは、グリップを握り締めて構える。そして、勢いをつけて一気にスイングした。
「良い飛び具合だ」
少々風はあったものの、ボールは弧を描いて地面に落ちた。フォックスがゴルフバッグを背負いながらボールの後を追う。ボールはグリーンより100ヤードほど手前に落ちていた。フォックスはボールを見つけたことを確認すると、ウルフに手を振って合図を出した。
ウルフはフォックスの合図を確認すると、フォックスの刺したティーにボールを乗せ、フォックスと同じく一番アイアンを取り出した。強くグリップを握り締め、そして一番アイアンを勢いよくスイングした。
「おっと、飛びすぎたか」
ウルフのボールは天高く飛び、そのままグリーンの上に落ちた。
「マジかよ!」
フォックスは驚いた。運が良いのか、それとも狙ったのか定かではないがグリーンに一打で乗せることは通常、難しい技術だとペッピーが説明してくれた。
「フォックス……まあ、アプローチショットで何とかなるだろ」
そう言うとウルフはゴルフバッグを担ぎながら、ボールの落ちたほうへと歩いて行った。フォックスはゴルフバッグからアプローチショットに使われるピッチングウェッジを取り出し、グリーンを狙って打った。フォックスの打ったボールは旗からは遠いグリーンの端の方に落ちた。
「フォックス、パッティング中にちょっかい出したら喰い殺すからな」
「俺はそんな卑怯なことはしない」
ウルフの真剣な眼差しはホールに向けられている。そして、ウルフはボールを小突いた。ボールは真っ直ぐにホールへ向かう。そして……
「入った」
ウルフはアルバトロスで一番ホールをクリアした。
「アルバトロスかよ」
「たまたま運が良かっただけだ」
結局フォックスは、パーという結果になった。ホール寸前で入らなかったり、入ろうとしたのに勢いがありすぎてホールを飛び越えたからである。
「パーでもマシなほうだろ」
「まあな、これでちょっとだけファルコに勝てる気がしたな」
「あの鳥もゴルフやんのか?」
「人は見かけによらずって言うだろ」
「それもそうだな」
フォックスとウルフは次にホールへ向かった。
10番ホールを回る頃には深夜に近い時間となっていた。さすがに二人ともエージシュートとまではいかない。しかし、この時点でフォックスの負けであった。
「フォックス、お前の負けだ」
「でも最後までやり通すのが俺の主義だ」
「お前もジェームズに似てきたな、あいつもそんな奴だった」
「ウルフ、今大事なとこだから」
フォックスはパッティングの最中であり、もうホールが間近に見えていた。精神を集中させて狙いを定める。そして、フォックスはボールを打った。
「入った、でも結局俺の負けだけど」
「まあ、お前意外と上手かったな」
「そう、ウルフに言われるとなんか照れる」
「可愛くなったな」
「なっ!?」
フォックスは持っていたパターでウルフの背中を小突いた。だが、ウルフは怒ろうとはせず、鼻で笑い返した。