全国大会、

□跡部
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「ねぇ、もう止めようよっ…」




どれ位の時間が経ったのだろう。
彼はコートでただただ一心不乱にボールを打ち続けている。
私の言葉に何の反応もしてくれない。




「ねぇ、このままだと死んじゃうよ!お願いだからっ!」




「うるっ…せぇ…。お前は…黙ってろ。」




「でもっ…!」




やっと返ってきた返事は息絶え絶えで。立っているだけでも相当辛いはず。
それでも彼はボールを打つ事を止めようとはしない。





「俺はっ…お前との約束を守れ…なかった」




「!」




「これくらいっ…はぁ…しねぇと…俺の気が収まらねぇ…んだよ」




「…っ!」




あぁ、どうして彼は…




日はもうとっくに暮れて、漆黒が私達を包む。
スポットライトに照らされた景吾とコートを静かに見つめて、深呼吸する。



「私は…優勝っていう肩書が欲しかったんじゃない」




「優勝して、笑う景吾と皆を見たかっただけだよ」




ピタっと景吾の動きが止まり蒼い目と視線が絡み合う。
何時もは力強い瞳は今はまだ弱々しく揺れている。




「確かに全国大会優勝は出来なかった…
だけど皆、精一杯やったじゃない!自分の力全部出しきったじゃない!」





「……」





「侑士、亮、ジロー、岳人、長太郎、若、樺地、みんな、みんな、最後には笑ってたじゃない!」





「私は…皆が楽しそうにテニスをする姿が好きだったの」





握る拳にグッと爪が食い込むのがわかる。だけど今はそんなの気にしてられない。





「だからっ…そんな痛々しいテニスしないでっ…大好きなテニスで辛そうにしないでっ…!」





景吾は泣いている。勿論、表情には出さない。だけど確かに泣いているのだ。見てるこっちが泣きたくなるくらいに。





「悪い…」





歩み寄って来た景吾にふいに抱きしめられる。
汗で濡れたユニフォームは冷くて、毛先からポタポタと落ちる汗が私の髪にも伝う。





「…、これも」





閉じた拳を開かれて血が滲んだ掌に優しくキスをされる。





「景吾…」





「…来年…俺達は負けない。」





「…うん」





「だから今だけ…


…慰めろ」





一瞬で胸の中に引き寄せられて力強く抱きしめらる。
私も力一杯に抱きしめ返した。






肩越しに見えた月だけが私達を見ていた。




(それは笑顔を見るための口実。)


 

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