千月的徒然草

□Case2:百合
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その日 敬は部活で、新入生の私はまだ部活見学に行く気にはならなくて、第二図書室で本を読んで暇を潰すことにした。

学校の造りなんかどこも似たようなもので、二、三日もあればどこにどの教室があるかは覚えられる。
この学校は図書の充実に力を入れていて、図書室が二つある。
と言っても、第二図書室はいわば書庫みたいなもので、比較的図書室に人が集まる昼休みでも人の影はまばらだった。
つまり、みんな部活だったり帰宅部だったりして図書室に来ない放課後には、一人で過ごすのに絶好な穴場ってわけだ。
適当に面白そうな本を見繕って机につく。

新しい校舎。
新しい制服。
新しいクラス。
何もかも新しくて、何だか自分がひどく大人になった気がした。
小学生の頃は見上げるほど遠かった制服を着た学生たち。
今や、私もその学生たちに仲間入りしたのだ。

暖かい春の陽気に浮かれて、ページを捲りながら胸元に手をやった。

首から下がる細い鎖。
その先にはぷっくりと艶やかな、愛らしい銀の猫。
襟元から取り出して眺める。
ガラスの瞳がキラキラと日に輝いた。

その輝きはゆっくりと静かに、恋に変わっていくのかもしれなかった。
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