Case4:敬 教室の一番前の席。 そんなところに座っていても、授業の内容なんて耳に入ってこない。 俺の頭を占めるのは、この間のこと。 『でも、敬は百合ちゃんが僕とデートしてもいいと思ってるの?だって、敬は百合ちゃんのことが…』 『やめろ!』 恵は俺が百合を好きなことを知っている。 だからなのかは知らないが、恵は百合から誘われてもデートをしようとしない。 別に、断るわけじゃない。 でも、断るよりもずっと性質は悪いかもしれない。 恵は、百合に誘われたデートに、俺を誘う。 いいかげん、やめて欲しいと思う。 だって、お前がはっきりしないから、百合の想いは空回りしてる。 お前がはっきりしないから、百合は確かに傷つかない。 でも、お前がはっきりしないから、百合はあきらめる事すらできない。 俺だって、百合が好きだ。 別に、お前とくっついて欲しいわけじゃない。 自分の想いをあきらめて欲しいわけじゃない。 傷ついて欲しいわけじゃない。 でも、この状態は、あまりにも曖昧すぎるから。 空回りしている百合を見ていたくない。 だってこのままじゃ、俺の想いも空回りしつづける。 傷つくことも、あきらめることもできないから。 想いだけが空回りし続けるのは、ひどく、苦しい。 ひどく、虚しい。 だって、この状態では、あまりにも曖昧すぎる。 . |