千月的徒然草

□肉体改造クラブ 女子高生版
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台本の立体化
#ピアッシング『美咲』に寄せて



肉体改造クラブはオムニバスの三話構成である。
その中で私にとって、台本を読んだだけでは何が何だかわからないのがピアッシングだった。

主人公は美咲と香奈恵。
かつてリストカットをしていた二人は痛みによって自己の存在を知覚する。
二人とは全く関係ないようで、シンクロしているガングロ少女、麻里子と若菜。
ピアスをしている香奈恵とピアスをしてみたい美咲。
電話越しに話す二人は冷たい親子関係を隠し、理想の家族像を相手に話して聞かせる。
やがて将来の夢を笑ったと喧嘩になる。
美咲はただ過ぎ行く毎日の中で流れを止めたかった、引っ掛かりたかったと言い、香奈恵はそんな美咲に「どうでもいいじゃんそんなこと!」と嘘を吐いていたことを曝露する。
電話を切った二人は何かと闘うようにして全身にピアスを付けていく。
やがて疲れたように座り込み、二人は小学生の頃していた交換日記の話をし始める。
そこで『麻里子』と『若菜』がその頃二人が使っていたペンネームだとわかる。
突然舞台が暗転し、メイク落とし途中なんだけどという麻里子の台詞で幕が切れる。

この訳のわからない話が約半年かけて段々と形をとってくる。

二人が痛みによって自分の存在を確かめるのは、親から向けられる愛情が足りなくて愛によってでは自己の存在を確信出来ないからだ。
二人の会話に麻里子と若菜が割り込んでくるのはそれが彼女達の一部だから。

つつけば壊れるような親子関係を二人は嘘を吐いて必死に隠す。
そうすることで日常に溶け込み、日常を守っているのだ。
そんな二人の中で麻里子と若菜は嘘のない友達関係を望み、恐る恐る手探りで相手の領域に踏み込んでいく。

美咲と香奈恵のピアスをするという行為による「気付いて、私はここに居る!」という叫びは、結局親には届かず二人は相手に助けを求めて電話する。
折しも麻里子と若菜は厚底靴を脱ぎ、本音で語り合おうとしていた。

将来の夢を語った四人に聞こえてきたのは笑い声……。
流れを止めたかった、引っ掛かりたかったと言う美咲に引っ掛からないで、流れ止める方がたち悪いと言う香奈恵。
怒り心頭の麻里子と若菜。

そして、何かを振り切るように美咲と香奈恵はピアスをしていく。
それは闘う為の武器の様であり、自分を守る鎧の様であり…。
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