千月的徒然草

□Case1:敬
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バレンタインに初めて百合にチョコレートを貰ったのは俺が小学二年生のとき、百合が一年生のときだった。
家が通り向かいの俺たちは小さいころから毎日一緒に駆けずり回って遊んでいた仲で、一番最初のそれは恋よりもずっとずっと儚い感情で。
言葉にしたら壊れてしまうような想い。
あえて明け透けにものを言うなら、恋も解からぬお子様が、世間の風潮に流されたのだ。
その一ヵ月後のホワイトデーに俺も もちろん世間の風潮に流された。
お返しは確か定番のキャンディだった。
それから俺たちのバレンタインの習慣はずっと続いている。

いつからだろう、その中に恋という淡い、しかし確実な感情が入り込んできたのは。

「ホワイトデーと卒業と入学祝と、それ全部一緒だかんな。」

指折り数え上げて釘をさしたら、とたんに百合は不満げな声を上げた。

「えー、三つとも同じなんてなんか手抜きじゃない?」

「何言ってんだよ、今年のはいつもより予算割いたんだからな。それに!俺は去年お前から入学祝なんて貰ってないんだぞ!」

「いやーん、敬、怒らないで?」

下から上目づかいに覗き込んでくる百合の頭を撫でてやる。

「まったく、百合は我侭だな。」

「えへへへ。」

頭を撫でられてくすぐったそうに百合は笑った。

四月になれば、また二人で学校に通うようになる。
それが待ち遠しくてならなかった。
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