時間が無いにもかかわらず、人目につかないという理由から階段を選択したせいで
駆け足で昇る羽目になった


より強く握られた掌が
ディアッカの熱をこちらに伝える


上階へ進むにつれ、大きさを増す花火の音
それに呼応するように、胸の鼓動も高鳴っていく


これはきっと…駆け足のせいだけではない





息を切らしやっとのことで屋上に着くと
その扉からはわずかに光が漏れていた


「お、開いてんじゃん?ラッキー」


重い扉を開けると、そこには任務中だったと思われる多くの兵士たちが、煌く夜空を見上げていた
ある者は花火が上がるたびに感嘆の声を上げ、ある者は家族とでも話しているんだろう、携帯電話を片手に笑顔を浮かべている


「ははっ。みんな考えることは同じなんだなー」

「こんなことで国防は大丈夫なのか!?いくら停戦中とは言え…」


といいかけて口が止まる
考えてみれば、花火を見たくて抜け出したオレも同罪だ


「まー今日くらいはさ、固いこと言わずに!」


ディアッカはオレの背中を押しながら、花火のよく見える場所まで移動した
直後、ひときわ大きい花火が夜空へ舞い上がった


「「「おおーっ」」」


呼応するように、その場に居た兵士たちも大きな歓声を上げる


「…すごいな」

「わーデカイね」


思ったより間近に見える大輪の華に、オレたちは一瞬にして目を奪われた
少し遅れて伝わる爆音も、室内で聞いたものとは比べ物にならないほど全身に重く響いてくる

いつもは戦場を思わせる暗闇の空を、美しく彩る光の華
しばらくは仕事中であることも忘れ、その幻想的な景色に酔いしれた


花火に気を取られて気づかなかったが
ディアッカはオレの腰に手を当てたまま、同じように空を見上げている
いつもなら、そんな強引な腕なんかすぐに振りほどくのに
今夜は不思議と、嫌な気は起こらなかった


誰も見てないだろう
皆、花火に夢中だ


横目でディアッカを見ると、予想通り子供のように目を輝かせている
かと思えば、光に照らされた瞬間だけ、精悍な顔の輪郭が淡く浮かびあがる


花火よりも、そっちに気を取られてしまった


「間に合ってよかったー」


突然、こちらを向いたディアッカに、見惚れかけていた目を正面へと戻す


「正直いうと、イザークが許してくれると思ってなかったから。すげー嬉しい」


仕事を抜け出すなんて、確かにオレの性分ではない
でも、オレがディアッカにしてやれることはこれぐらいしかないんだ

何より、オレもそうしたかったからという理由もあるけど


「なっ!?」

「んもう大好きイザーク!!ありがとな!!」


オレの肩をぐいと引き寄せ、耳元で大声で叫ぶ
また無邪気な笑顔を見せたかと思えば、すぐに空へと視線を戻してしまった



それでも



たった今、語られた言葉と
再び現れた穏やかな横顔に



心が、一気に締め付けられていく




>>next




戻る

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ