「1年たつの…早えよなぁ」


酒を酌み交わしながら、口をついて出た言葉
そういえば去年の今頃も、同じことを言っていた気がする


「そうだな…」


このイザークの返事も、去年と一緒だと思う
下手したら、毎年こんなやり取りをしてるんじゃないだろうか


年を重ねるにつれ、1年が早く感じる
仕事もプライベートも、密度が濃ければ濃いほど時間があっという間で


変わらないのは、このやり取りだけ
ある意味、風物詩に近いかもしれない


「この花火も、何度目だろうな」


首都・アプリリウスの中心には毎年、新年を知らせる花火が上がる
これは、オレたちが生まれる前からの名物となっている


イザークが何気なく言った言葉が、なんだか感慨深くて


「50年後も、同じこと言ってたりして」


と、意味深なセリフを吐いてみた



遠い先の未来でも、隣でこんなふうなやり取りができたら
言うことないでしょ



「…さあな。貴様はこの世にいないかも知れんぞ」

「年明けから、グサっとくる事言うなよ…」



イザークらしい答えだった
もう、笑うしかない


「…でも」


軽くへたり込んでいると、イザークがまた口を開いた



「その時オレは…貴様を想いながら、この花火を見ているんだろうな」



そう語った横顔が、一層美しくて
ほろ酔い気分だった頭が、一気に冴えてしまった


オレは、イザークには直球だけど
自分に直球な気持ちが来るのは慣れていないから

嬉しい反面、少しだけ気恥ずかしさも感じた


「その時はイザークも、この世にいないかもよ?」

「…貴様、今すぐこの世から消してやろうか?」

「嘘だって!!」


一向に酔う様子のないイザークの鋭い視線
結構強烈なんだよなぁ…



…でも



さっきイザークが言ったように
もしオレを想いながら、花火を見てくれるんだとしたら



その時コイツは、一体どんな表情で、空を見上げるんだろう




笑ってくれてたら、最高だな




「イザーク」




呼びかけると、イザークは顔だけをゆっくりこちらに向けて
オレの言葉を待った




「今年は、去年以上に幸せにするからな」




オマエが未来でも笑顔でいられるように



毎年、沢山の幸せをあげるよ








「…去年が幸せだったと、誰が言った?」



真面目な顔で、きちんと瞳を見つめて言ったのに
やはり、強烈な一言を返された



「もー…素直じゃねえなぁ」



困ったように笑うと、イザークもクスっと笑って
目が合ったのを合図に、互いに顔を近づけながら瞼を閉じた



『今年もよろしく』




想いを込めて、交わした接吻




この唇からまた、どんな皮肉が飛び交うことやら


今年も楽しみで仕方ないよ

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