◆捧げもの小説

□二月の儀式
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ある晴れた日曜日。
キッチンでおやつのマドレーヌを作っていた芦川美鶴の元に、一本の電話がかかって来た。

「…はい」
『あっ、芦川?今日何の日か知ってる?』

電話の向こうから聞こえてきた声の主は、美鶴の親友・三谷亘だった。

「節分だろ。そんな事でわざわざ電話してきたのかお前は」

『ピーンポーン!!大当たり!! 景品は残念ながらありませんよ〜ん♪』

「………切るぞ」

『うおぉぉい!!! ちょっと待った!!話聞いて話!!』

「何だよ」

『あのさぁ、さっきも言った通り、今日節分ジャン? だからみんなで集まって豆まきしようって事になったんだけど、来ねぇ?』

「みんなって?」

『え〜〜っと、俺だろ?あと俺と俺と俺が来る。 あっ、あともう一人俺が来る』

「…そんなに三谷がいたら気持ち悪いな。僕は遠慮しておく。じゃあな」

『待った待った!!軽くスルーするなよっ』

「…シャレか?」

『? 何が?』

「いや、何でもない。で、誰が来るんだ?」

『俺と、カッちゃんと宮原が来る』

「……やっぱり遠慮してお…『あっ、大松さんも行くってさ』

一瞬、美鶴の表情がピクリと動く。

『なんだ、来ねぇの? なら仕方な「行く」

『えっ?』

「行くよ、行く」

亘の顔がパァと明るくなったのが、電話でもよく分かった。

(…ホントに表に出やすい奴だな、コイツは)
と、美鶴はつくづく思う。

『じゃあさっ、頼みがあんだけど、そっちで恵方巻作ってくんないかな、5人分。作れる?』

今にもその場でスキップしそうな声で、亘は言った。

「別にいいけど…」

『ありがとう!!7時に三橋神社集合だから、遅れるなよ!またな!!』

「お前こそ遅れるなよ?…じゃ」

ガチャリと電話を切った。

ふぅ、と溜め息をつくと、オーブンで焼いていたマドレーヌの焦げ臭さに気付く美鶴だった。
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