ぽっぷんしょうせつ

□なによりもあたたかいもの
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喧騒、罵声、他にも耳障りなノイズがたくさん。それが毎日俺の耳に入って来る。溢れんばかりの音で俺は耳を塞ぐ。それでも俺が音で塞いで無いときを狙ってノイズは入って来る。
うるさい、うるさいうるさいうるさい!
(いい加減に…止まれよノイズ…!!)
俺はそう思ってイヤホンを更に耳に押し付ける。激しいリズムのおかげでノイズは和らぐが、ノイズは俺の隙を狙って入って来やがる。
こんなこと言う柄じゃねぇが、もう限界だった。限界だからこそ、俺の思考はかなりネガティブになっていた。
(くそ、テメーらみんな消えちまえ…!!)
ーーいや、俺が消えればいいのか…

今考えれば馬鹿みてーな話。周りが消えねーなら俺が消えちまおうって魂胆なんだからな。でもネガティブな俺はそんな無駄な考えを素晴らしいとしてカッターを手に取った。カッターなんかで死ぬなんて、かなりアホみてーな話だが、この時の俺は無茶苦茶糞真面目だった。くだらないヤツらやくだらない世界とおサラバして、もっと自分に相応しい世界を見つけようと必死だった。
カッターを左手首に突き立てる。真っ赤な鮮血が吹き出る。
(痛い、痛い痛い痛い痛い!!)
俺は心で泣き叫ぶ。だけどその涙と絶叫は全部凍えた心にしまい込まれ、表には能面みてーなくらい不気味な無表情の俺が左手首にカッターを突き刺して動かしていた。血が妙に暖かい。暖かいっつーより、滅茶苦茶熱い。「人の血ってこんなに熱いんだ」なんて感心しながら手を進めていたら、不意に誰かの手が俺の右手を引っ付かんでカッターを取り上げる。心臓がドクンドクンと脈打つ度に血と痛みが傷口から現れた。俺は取り上げた相手を睨むつもりで見上げてやった。そこにいたのは、俺の一番大事な肉親。
「あ…にき…」
同じ顔をした兄貴、いつもは見るに耐えねーくらいオドオドまごまごした弱気な顔してんのに、今日だけは随分強気な表情をしていた。兄貴はカッターを部屋の隅に放り投げ、ハンカチをポケットから取り出して俺の手首にぎゅっと巻いてやれば、別の部屋に早足で歩いていった。
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