ぽっぷんしょうせつ

□負けねーから
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沈黙の室内。傾き始める日差し。向き合う二人の人物。片や青い帽子の男性。片や黒と黄緑の髪の男性。Mr.KKと、Dの双子の弟だった。


負けねーから


それが始まったのは丁度1時間ほど前。Mr.KKがファットボーイのアパートを訪れた。たまたま今日作ったケーキがとても上手く出来たので、家が近い彼らにお裾分けをしようというわけだった。それでチャイムを鳴らして中の人物を呼び出したが、どういう訳か今日はファットボーイもDも、挙げ句Hot・Dも居なかった。代わりに出てきたのは、不機嫌な顔をした引きこもりの青年。Mr.KKは名も知らないほとんど見たこともない人物。Dの双子の弟だった。Mr.KKは目を丸くする。Dが言うには彼は自分を嫌い、だからこそ自分相手には姿も見せず、名すら告げないと思っていたからだ。もっとも、本名を告げないのは兄弟共通なのだが。室内に招き入れるような仕草に釣られて入って今に至る。カチンカチンと秒針が進む。沈黙の室内に暖かな雰囲気は射す様子すら見せない。一応D弟の出してくれた紅茶が目の前にあるが、Mr.KKは正直飲む気にはなれなかった。当のD弟自体も紅茶に口をつけようとはしない。Mr.KK自身は遠慮しているわけではない。ファットボーイやHot・Dならともかく、Dやその弟に遠慮する理由は無いと思うからだ。互いに互いを警戒している。それが口に飲み物を流し込まない理由であった。ちらりと緋色の瞳がMr.KKを捉えた。Mr.KKもそれを鳶色で返す。
「あんた、兄貴の何なワケ?」
D弟第一声。Mr.KKはピクリと眉を動かす。D弟はスプーンを左手で弄びながら、頬杖をついてMr.KKを見ている。Mr.KKは帽子を取り、テーブルの傍らへとそれを置いてやる。鳶色と緋色が真正面からぶつかった。
「あんた、兄貴の何なワケ?」
全く同じ言葉。Mr.KKは答えない。それを見ていたD弟は、不快そうに眉をひそめる。答えないのが気に食わないようだ。D弟がスプーンでMr.KKを指し示す。
「聞ーてんのおっちゃん?寝てねーよな?」
呆れと苛立ち、そして嘲りが含まれた声。良く知る兄に良く似た声。ただ、この声は通常状態の兄が絶対に出さない声。
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