□キミの日
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起きて少し目を動かして今どこにいるのかを探る。
見覚えのない建物ばかりが現れては消え、現れては消えてゆく。
見たことのない景色の中を電車は走っていた。
そんなことを寝起きの冴えない頭で考えていると、なぜ私の体は傾いているのに倒れていないのか、という疑問がと浮かんだ。
私の座っている席は2人席。
奥の方に座っているが内壁がない方へ傾いているので、体の支えになるものがあるはずもない。
常時よりスローペースで機能している頭も少しずつ覚醒の道を辿る中、チラリと左の方へ視線を向けると‥…人。
――――ヒト!??
寝てる内にもたれちゃってたんだわ!それも思いっきり!
「ご、ごめんなさい!!」
猛スピードで瞬間的に脳が覚醒し、それと同時に体を隣の何かから勢い良く離す。
恥ずかしくて相手の顔が見れないで俯いていると、
「美奈」
自分の名前を呼ばれた気がして、驚きながらも顔をあげる。それにこの声…
そこには深々と黒の帽子をかぶった少年らしき人。
…夜天くん、だ
顔こそ見えないけれど、帽子を被っても到底隠せそうもない長くてとても綺麗な銀髪が私にそう教えてくれた。
それに彼の私の名前を呼ぶ、無愛想の中から滲み出てる優しい声が何よりの証拠。
あたしの名前をそんな声で呼ぶ人は、夜天くんしかいないわ。
「な、なんでこんなとこに…」
「なに、僕がいちゃいけないっていうの?」
「そっそんなことないです!滅相もございません!」
「ふふ、ロケの帰り道だったんだけど、用事があったからみんなと別れて電車に乗ってたんだよ。そしたら見覚えのある金色の髪が見えたからさ。…しかもその子は爆睡してるしね」
「…////」
「支えがなくていつ倒れるかわかんなかったし、しょうがないから隣に座ってあげたんだよ」
わざとそんな言い方をする夜天くんが、なんかとてつもなく懐かしく、そして愛おしく思えた。日の光にキラキラ反射する銀色の髪がとても綺麗で見入ってしまう。変ね、いつも見てるのに。
「あれ、じゃあ夜天くんその用事っていうのは?」
「もういいんだよ」
「もしかしてもしかしなくとも あたしのせい!?ご、ごめんなさいっ!」
「美奈のせいじゃないよ。僕が勝手に座ってただけだし。それに大した用じゃないしね」
「ありがとう…ふふっ」
「別に。…‥たまにはこういうのもいいかなって思っただけだよ」
「“こういうの”って?」
「別に、なんでもないよ」
「う・そ!絶対なにかあるわね〜」
「たまにはさ、何も考えずにゆらゆら漂ってみるのもいいかなって思ったんだ..
今日は美奈の日だしね」
(こんなに日差しがあたたかい日には君をいつも思い出す。天真爛漫で危なっかしいと思ったら、母のような、女神のようなあたたかい腕で僕を包むキミを)
「あたしの日?」
「そ、」
「どういう意味‥?」
あたしにはよくわかんなかったけど、夜天くんがあんまり優しく笑うから
「・・・おかえりなさい」
「ただいま」
そう言って 二人で笑った。