白雪

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いつの間にか部屋に居たってことは誰かが運んでくれたわけだし、その人にお礼も言った方がいいだろうし。
…にしても人が居なさ過ぎのような気がする。
ツェリさんに会った時もそうだったけどなんでこんなに人の往来が少ないんだろう。
人材が少ないとは思えないし、持ち場がはっきりしててその場からあんまり動かないからかな。
でもどうしたもんか。
万が一迷うとまずいから横道にそれずに真っ直ぐ歩いてるけど、これじゃいつ誰かとすれ違うかわからない。
試しに曲がってみるのもありだとは思うけど…
腰の重い私がここまで動いてるんだ。
それでさえ奇跡に近いのに、わざわざこの広い空間をさ迷う一歩手前な行動を起こす筈が無い。
うーん…
一旦部屋に戻ろうかな。
そうだ、部屋で待ってれば夕食時にでも誰かしら来る。
その解答に至った途端にここまで歩いたのが急に阿呆らしくなってきた。
寝起きで思考が大分鈍かったとはいえ、その場で思い至らなかったのは妙に口惜しい。
……戻ろう。
目覚ましの運動だったと思えばそこまで無駄でないように思える。
しかし踵を返そうと左足を斜めに置いたところで、真横のドアが開く音に顔を上げる。

「あ」

私と目線と同じくらいの位置で揺れる少し癖のある金髪。
こちらを確認するや否や見開かれた瞳は綺麗なエメラルドグリーン。
その容貌は強張りを隠そうともしない表情でもお変わりなく整っている。

「ヴォルフラムさん」

声を掛けるとその強張りは更に増す。
…おかしい。
確かに彼にはいい目で見られていない。
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