白雪

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とても開戦の危機だとは思えない。
普通もっと殺伐としていないだろうか。
前の内戦とは比べものにならないほど和やかな雰囲気。
…まだ“危機”というだけだからか。
いざそうなったら、と思うと恐ろしい。
今が平和(のよう)だから尚更だ。
クッキーに似た焼き菓子を食べつつ本に目を走らせる。
たまには物語も読みたくなったので、書斎から拝借させて貰った本だ。
侍女さんにお薦めを聞き、出てきたのがこれ。
題名は『毒女アニシナと患者の意思』。
…凄い題名だと思うが中身はなかなかシュールで面白い。
廊下の騒がしさをよそにさくさく読む。
外は騒がしい。
騒がしい…けれど。

「嵐の前の静けさ…ってやつかな」
「何んだ、それ」
「日本の慣用句。嵐の直前って不思議と静かでしょ。それを事件前の不気味な静さに例えてるんだよ」
「なるほどな。ま、あってるっちゃ、あってるんじゃねぇの?今は“静か”とは無縁だけど」
「まぁね」

口内に残った焼き菓子をお茶を飲んで流しながら、私は視線を上げた。
生成さんは相変わらず寝そべった体勢で浮かんでいる。
楽そうな…悪く言えばだらけた格好で。
それでも下品に見えないのは彼の容姿があってこそだろう。
現実味を感じない彼の姿。
ギュンターさんとは種類の違う美しさだ。

「戦争、やっぱり起こりそう?」

真剣さを含まさず、私は生成さんに問うた。
あくまで世間話レベルで。
不謹慎だろうがそうなってしまうのが今の現状だ。
私の問いに生成さんは体勢を崩さず顔を向ける。
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