「雲雀さん雲雀さん、私将来絵本作家になりたいんですよ」
「へぇ、そう」
「私の絵本で、たくさんの子どもが楽しんでくれたらいいな〜、なんて思ってるんです」
「ふぅん、君らしくていいんじゃない?」
「本当ですか!?じゃあじゃあ、まずは雲雀さんが読んでみて下さい!それで、アドバイスとかあればお願いします!」
そう言いながら、僕に分厚いノートを押し付けてくる彼女。
「悪いけど、僕今忙しいから。それに絵本なんて読まないよ」
僕は彼女とノートに見向きもせず、書類整理を続ける。
「書類整理くらい私がやりますから!そういう雑用、私の方が速いですよ?だから読んで下さい!」
半ば強引に僕の手から書類の束を奪い、代わりにノートを渡される。
まあ、確かに彼女書類処理のスピードは速い。その方面の能力に優れているのだろう。
それに僕は群れてる草食動物を咬み殺すのが好きなのであって、こんな雑務、やりたくてやってるわけじゃない。
僕は仕事を彼女に任せて、ソファーに深く腰を掛け仕方なくノートの表紙に目を落とす。
「…ねえ、何だい?このタイトル」
‘ヒバリ君とムクロ君’
とてつもなく捻りのないタイトルな上、六道骸の名前。
…彼女は僕に咬み殺されたいのだろうか。
「えへへ、そのタイトル、一昨日の晩に寝ないで考えたんですよ。お話は昨日、徹夜して書きました!とにかく自信作なんで、早く読んで下さい!」
…このくだらないタイトルの絵本のために、二日連続で徹夜したのか。
前々から思ってたけど、今確信した。
この子は、馬鹿だ。
…かなり重度の。
「はぁ」、と軽くため息をつき、表紙を開いた。
…。
パラパラとページをめくっていく。
……。
………。
…………。
「ねえ、君さ」
「?どうかしましたか雲雀さん」
「何で絵本なのに絵が全くないんだい?」
「…あ。」
彼女はぽかんと開けた口を手で覆い、「しまった」と言う顔でこちらを見る。
「で、でもっ!絶対面白いですから、読んでみて下さい!」
これだけ食い下がるんだ、相当の自信作なんだろう。
…まあ、あまり期待してないけど。
「つまらなかったら、咬み殺す」
「大丈夫です!咬み殺される筈がありません!」
ワオ、その自信は一体どこからやってくるのやら。
彼女の熱い視線を感じながら、僕は‘絵本’に再び目を落とした。
「…君、さっさと仕事しなよ」
〜ヒバリ君とムクロ君〜