捧げもの
□Happy Birthdayをちょうだい!!
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判っていても言えない事。
判ってるからこそ言いにくい事
本当は、誰よりも先に言ってやりたいのに
『Happy Birthdayをちょうだい!!』
「さて問題です 今日は何の日でしょー?」
「は?」
最終のチャイムがなった教室。
バラバラと帰り支度を始める同窓生を余所に土方の目の前に立った琴は、唐突にそう質問を投げ掛ける。
その急な質問に眉を寄せて少し、ま抜けた声を出した土方だが彼女が再び『今日は何の日でしょー?』と問うものだから、少しうーんと思案して
「ジャンヌダルクがパテーの戦いに勝利した日」
「………は?」
口に出した言葉は何時か歴史の授業で何となく教えられた事で、しかしながら今度は琴の表情が訝しげに歪む。
『何言ってんの?』という表情だ。
土方はそれならと
「大坂城の火薬庫が爆発して付近一体が火の海にな…」
「違うからッ!っていうかいらないから!!そんな情報」
口を開くも、それも違う様で。
『違う違う』と首を振る彼女に『じゃあ何だよ』と問えば、何故かジロッと睨まれ
「覚えてないの?」
「は?何のはな…」
「今日は琴の誕生日ですぜ 土方コノヤロー」
首を捻る土方に答えを出したのは、何故か教室の入口に立っていた沖田で。
彼は『あー疲れた』と大きく溜め息を吐くと、土方の後ろの席まで歩いて来る。
そんな沖田に琴は『あれ』と声を上げて
「珍しいね総悟がまだ居るなんて」
「先生に野暮用頼まれちまいましてねィ…」
「野暮用?先生って…もしかして銀八?」
彼女が尋ねれば沖田は『よく判りやしたね』と少しばかり驚いた風に笑って、ズボンのポケットから小さいデジカメを取り出す。
「何でもいいから香野の写真撮って来てくれって言われちまいまして」
「何ソレ…銀八のヤツ軽くストーカーじゃないυ」
「教師のくせにロクな事しねぇな アイツ」
呆れた二人に沖田は『まぁ でもこれも立派な恋愛でさァ』と笑って自分の鞄を掴むと踵を返した。
「っつー事で邪魔者は退散しまさァ 喧嘩するなりイチャつくなり後はお若い二人でお好きにどーぞ」
「するかよ」
「いや…若いって同い年なんだけどυ」
ヒラヒラと片手を振って教室を出て行く沖田を見送ってから、二人同時に息を吐き出した。
彼のお陰でさっきまでの話が何処まで行っていたのか判らなくなったが…
「つーかお前 誕生日だったのかよ」
「だったのかよって…トシ一体私と何年一緒にいるのよ」
「かれこれ17くらいか」
「なら覚えてよね 誕生日くらい」
「ぞろ目じゃねぇから覚えにくい」
「どんな理由だよυ」
呆れ顔で『もう仕方ないなぁ』と言う琴を見て、土方はごく普通に『嘘だよ』と言うと鞄を掴んで立ち上がる。
『は?』と鳩が豆鉄砲でも食らった顔で立ち尽くす彼女の額を土方は、人指し指でトンとつついて
「誕生日 おめでと」
聞こえるか聞こえないかのギリギリの声音。
けれど確かに琴の耳には、その言葉は届いていた。
『Happy Birthdayをちょうだい!!・終』