銀魂


□Lost
1ページ/1ページ



パタパタと鳥が空に羽ばたくのを見た。その鳥を目で追いながら右手に持った買い物袋をヨイショ、と抱え直す。中には黄色のぐにょぐにょした、赤いキャップが目印のモノが軽く5本。携帯ように使うから、という頼みを受けて小さな黄色のモノが更に10本。後はみんなが夜食に食べるものがいろいろ。全く、なんで私がこんな事しなきゃならないんだろーか。鳥を追っていたらそんな事も忘れていた。それにしても、あの鳥は綺麗だなぁ。太陽の光でキラキラ輝いてて。まるであの人みたい。






「よっ、」


「あ」





フラフラと鳥を追って歩いていたら、いつの間にかやってきていたのは、いつかの戦いの前に皆で集まった海の海岸だった。もうここには来ないって決めてたのに、なんとなく来てしまった。あの鳥のせいで。だって、私を導くかのように飛ぶのだもの。




「なんでここに?」


「お前こそ」


「鳥追いかけてたら、ここについちゃった」


「なんだ、メルヘンですかァ?」


「ち、違うよ!」





ふわふわと風に揺れる銀髪を眺めながら何故か触りたくなり、そっと触れようと手を延ばす。しかし、それは彼が海に向かって歩き出したので触ることは叶わなかった。彼のだるそうに頭をボリボリかく癖は変わらないらしい。だらしない、と黒い長髪のヅラが言っていた気がする。確か、最後の戦の日にも彼はそんな事を言っていた。ヅラは、私にとってはお母さんみたいな存在だったかもしれない。




「最近ヅラに会った?」


「いきなりなんだよ」


「急に思い出してさ」


「会ってねーな、アイツは"俺みたい"にならなさそーだからな」


「そう、かな」





こっちには振り向かずに、ただ海を見ながら彼は言った。少し淋しげに聞こえたその声は海の波の音に掻き消された。潮風が頬をそっと撫でていく。その潮風で更に彼の銀髪はフワフワと揺れた。そーいえば、辰馬もこんな髪型だった。お揃いじゃん、とかいって皆で茶化したっけ。辰馬は嬉しそうな顔してたけど、彼はあからさまに嫌な顔をしていた。



「銀時…辰馬には…」


「アイツにも会ってねーよ。今は確か宇宙にいるはずだぜ」


「…そっ、か。じゃあ…」


「高杉にも会ってねー」


「…晋助には、この間会ったよ」


「………」


「裏切り者、って言われちゃった」


「………」


「幕府の犬が、って…」





風が私の髪を遊ぶ。
無意識に伏せてしまった目を、ゆっくり彼にばれないようにあげる。彼は海を見ているから、こっちを見ていないはず。心配はない。右手に食い込み始めた買い物袋を足元に置いた。何故だか力を込めて買い物袋を握っていたから、手を見ると赤い跡がくっきりと残っていた。





「でもね、私…晋助や辰馬やヅラが生きててよかった」


「あ、ぁ…」


「別に裏切り者だとか、けなされても私は構わないの」


「心配しなくても、あいつらは簡単に死ぬような輩じゃねーよ」


「うん、でも」


「………」





ザワザワと木の葉が煩いほどに掠れる。やっと首だけをこちらに向けた彼は珍しく無表情だった。いやどちらかと言うと、少し悲しげに口端をあげていた。そんな彼を太陽は照らす。嗚呼、なんて貴方は綺麗なんでしょうか。キラキラと体が光っているじゃない。太陽の光に照らされて体が透けるほどに輝いているわ。





「ねぇ、体どうしたの?」


「………」


「いくら銀髪は綺麗だからって言って、そんなに綺麗に輝くものなの?」


「………」


「それなら、昔から教えてくれればよかったのに」


「なぁ、」


「何?」


「幸せにな」


「幸せ?」





あれ?、そう思った時には彼は私の目の前にいた。なのに、海が見えた。彼がいるはずの空間に海が見えた。まるで、彼の存在を無視するかのように。嫌だな、そんな事ありえるわけないのに。だって彼は…彼?名前の通り綺麗な存在の、はず。名前?名前はなんだっただろうか。彼の名前は?すぐ口に出来そうなはずなのに、声が出ない。もう喉のすぐ側まできているのに。







「俺がいなくても、ちゃんとやっていけよ」


「あ、なたは」


「もし困ったらちゃんと、土方や沖田君達に言えよ」


「なま、えは」


「後、ちゃんと結婚してガキ産めよ」


「だれ、」












「俺の事は忘れてさ」












「ぎ、」









「愛してた」






る、


(銀色の鳥が飛び立った)






(最期の言葉が過去形なのは、優しかったであろう貴方の最期の気遣い。そう感じるのはきっと彼が私を愛してくれていた様に、私も彼を愛していたから)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]