銀魂


□配達人
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「不法侵入者ですか〜?」

「生憎、そんなつもりはなかったんですが」

「勝手に俺の部屋に入ってるのに、そりゃないでしょ」

「俺の部屋じゃなくて、国語準備室とか言う部屋じゃないんです?」

「そうとも言う」




3Zの授業が終わって自称俺の部屋、国語準備室に戻って来た。今日やってくる転校生の机を運んでおけと、新八に伝えて(何かグダグダと文句を言っていたのは無視して)、今日の朝買ってきたジャンプを読もうと心の中でスキップしながら冷たいドアに手をかけた。すると、開いているはずのない窓に黒い髪を風に遊ばせながら座る女がいた。恰好はこの時代に関わらず着物という変わった姿。その手には今日朝に買ったジャンプがおさめられていた。



「それ俺のジャンプ」

「これ、この時代にもあるんですね…」

「おーい、聞けよ。そのジャンプね、銀さんの物なんだけど」

「別に取って食っちゃおう、なんて考えてないですよ」




ヒュン、と乱暴に投げられたジャンプを両手でダイビングキャッチ(久々にこんなに筋肉をフル活用した気がする)した俺の先には運悪く椅子があり、盛大にぶつかってしまった。クスクス、と笑いを堪えながら笑う窓際に座る女はお腹を抱えながら笑っている。



「……ふふっ…」

「…流石に心の広い銀さんでも我慢の限界なんだけど」

「相変わらず、何処か抜けてる所は変わらないんですね」

「は?」

「あ、こっちの話です」



静かにクスリ、と笑うと女は携帯を取り出した。「圏外…まぁ当たり前ですよね」と呟くとまた圏外を懐におさめて、こっちを向いた。





「あの、」

「な、何だよ」

「今、いくら持ってます?」

「は?」

「いいですから、」

「……567円」

「………」

「何ですか?その哀れんだ目は」

「今も昔もちっとも成長してないんですね」

「銀さんは立派な大人に成長してますー」

「いや、違くて」





はぁ、と深い溜め息をつかれるた。会って三分も経たない女に所持金を聞かれて、あげくの果てに溜め息をつかれるなんて、たまったもんじゃない。しかし、この女どこかで見たことのある気がする。何故だかどこか懐かしい気がしてならない。



「今更なんだけどさ、」

「はい?」

「お宅…誰?」

「………」

「………」

「…さぁ?」

「しらばっくれてると、」

「そういえば、生徒達はどこへ?」

「話の腰を折るんじゃありません」

「一番前の席の人って誰ですか?」

「(無視かよ)…新八、神楽、沖田君にヅラに……後、今日転校してくる生徒だけど」

「………」

「それがどーか?」

「いや…なんでもない、です」

「?」




誰かの知り合いなのだろうか。少し見開いた目を見る辺り、あながち間違ってはいないのかもしれない。だが、女はフッとすぐに元の表情に戻り外を背にして窓際に座った。逆光のせいで表情が読み取れない。




「アンタの用件には答えたんだ、こっちの用件にも答えてもらわねーと、フェアじゃねーよな?」

「…わ……した、」

「あ?」

「私達は一時だって一緒でした」

「…何言って、」

「お金がなくても、食べるものがなくても、いつも一緒でした」

「は?」

「周りにもたくさん素敵な人がいて、幸せで」

「………」

「…それは、来世でも代わらないみたいですね」

「来、世…?」















「銀時によろしく伝えときますね。"坂田銀八"さん」








クスリ、と女が笑った刹那 女はそのまま背中に体重を託し、この部屋が三階なのにも関わらず背中から落ちていった。あまりにも唐突な出来事で反射が遅れて、俺が窓際についた頃には女の姿はなかった。この高さだったら死ぬ、そう思って窓から体を乗り出して下を見た。しかし、そこには女の死体はなく、変わりに一人の少女が立っていた。








「…あ、すいませーん!」

「え…?」

「私、今日転校してきた者なんですけれど!」








(バッ、お前どこ行ってたんだよ!)
(ちょっと、来世を見に行ってた)
(は?)




(下から俺を見上げる少女は、先刻いた女とよく似ていた。少女がつけたヘアピンの桜と先刻いた女の簪の桜が同じと気付くのはもう少し後の話)

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