銀魂


□幸福論
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「ホラ、」

「あ、ありがと…」

トシからもらったホットココアが外に長時間いたせいか、異常に温かく感じた。隣に座るトシを見て、ふと、小学生の下校の時は近所だったのもあって、二人一緒に帰るのが当たり前だった事を思い出した。今の私達からしたら考えられないけど。二人で帰る道のりはとても楽しかった。けれど、時は残酷なもので、そんな時にも終止符がうたれた。ふと気がつけば彼は総悟君や近藤君達と帰っているし、私もいつの間にか妙や神楽と一緒に帰っていた。何故かその事が当時の私には急に淋しく思えた。その時、初めて気付いたのだ。私はトシに恋をしているのだと。そう気付いてからというもの、何故だかトシに近づけなくなってしまった。からかわれた言葉にも、返すことが出来ず、会話もみるみるうちに減っていった。しかし、トシに対する恋心は増幅していくばかりだった。もっと素直になれたらイイのに、そんな気持ちも恋心と比例するように増幅していった。そんな中学生の時だった。トシに好きな人がいると聞いたのは。心臓が張り裂けそうになって、息苦しくなって、思わず総悟君が何か教室で叫んでいるのにも構わず、私は教室から走り出したのを今でも鮮明に覚えている。きっとそのトシの想い人は私なんかより、ずっと素直で可愛くてトシ好みの子なんだろうと思うと涙が止まらなくなった。恋心が涙となって溢れ出した様だった。止まらない涙を見て、「こんなにもトシが好きだったんだ」と思うと、更に涙が止まらなくなった。それから、私とトシは別々の高校を受けた。確かトシの第二希望は私と同じ高校だった。「落ちればイイのに」、と思ってしまう私に気付いてまた、涙が頬を伝った。しかし、運がいいのか悪いのか、二人とも無事に第一希望に合格した。それからトシに会うことは、めっきり無くなった。近所とはいえ、遠くの高校へ通うトシと会う事はそう簡単な事ではなかった。この想いともいい加減、断ち切らなきゃ、と思い始めていた頃だった。いつも乗る電車に乗り遅れて、帰るのが遅くなってしまった。ふと立ち寄った公園のベンチに腰かけていた。確か小学生の頃はここでよくトシと話してたっけ、そんな回想に気をとられていた時に不意に彼が現れた。




「よォ」




懐かしい声が耳に心地よく響いた。一瞬だけ時が止まったように感じた。顔を上げた先にいた変わらないトシの姿を見て、また時間が止まるのを感じた。固まった私の顔を見て、「化けもん見たよーな顔、してんじゃねーよ」と一喝された。嗚呼、こんなやり取りは久々だ。けど、言い返す言葉もなく、ただ「ごめん」としか言えなかった。そして、トシが差し出してきたのは、温かいホットココアだった。トシはコーヒーを持っていた。「ホラよ」と差し出すトシに甘えて「あ、ありがと…」と吃りながらも壊れ物を扱うようにホットココアを受け取った。トシは私の隣に腰をかけて、コーヒーを飲むとほっ、と一息ついたようだった。その一連の動きが愛しくて堪らない。こんな間近でトシに接するのはいつぶりだろうか。中学生の時も、トシの想い人が発覚してからろくに話してもいなかったから、数年ぶりに値するだろう。



「なんか…久々だな、こういうの」

「う、ん…」

「小学生の時以来じゃねーか?」

「………」

「よく、話してたのにな」




何故だか鼓動が速くなった。理由は分からない。けど、トシが私と一緒にこのベンチで話していた事を覚えていてくれたのが嬉しかった。ただただ、純粋に嬉しかった。そして自惚れた私にはトシが私と話せなくなった事に後悔しているように聞こえた。馬鹿だ、馬鹿だ。そんな事がありえるはずもないのに。



「どーかしたか?」

「な、なんでもないよ!」

「……寒いのか?」

「大丈、夫、…っ……!」

「冷てぇじゃねーか」




心臓が速まるどころか、次は破裂しそうになった。何年かぶりに触れたトシの手。温かくて、ホッとして、ごつごつしてて、大きくて、昔触ったのから何も変わってはいなかった。顔が焼けるように熱い。確かに私は極度の冷え症だし、手は冷たい。…そっか、昔よく手を繋いでいたからトシは分かるんだ、私がこの時期になるとすぐ体が冷めちゃうんだ、って。冷え症なんだ、って。その証拠に昔みたいにトシは、自分が着ていた学ランを着せてくれた。そんな事、とっくに忘れているものだと思っていた。ずっと話さなかったし、ずっと触れなかったし、ずっと避けてきた。トシの好きな人の存在に怯えて近寄れなかった。今だってそうだ。きっとトシには彼女がいる。こんなにかっこいいんだもん。いない方がおかしい。そう思うとまた涙が出そうになった。




「こんな事してたら、彼女に…、怒られるよ」

「何言ってんだ」

「そのまま、だよ…」




せめてもの我が儘だ。自分の涙を堪えるための。





「彼女はいねぇ、」

「嘘つかな、」

「けど、好きなヤツはいる」





心臓が更に速まった。





「ずっと想ってた」
(私も)




「ずっと見てきた」
(私もだよ)






「ずっと触れたかった」
(私もずっと)






「ずっと話したかった」
(ずっとずっと)






「ずっと愛してた」
(私、も)
















「お前が、」
(貴方が、)













「好き、だ」






20090224 加筆
20081116



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