銀魂
□強がり
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「何やってんでさァ」
「何だァ?この餓鬼」
「…総悟」
日が暮れ始めて数時間。今日のドラマを録画し忘れたあたしはつくづく運がないようだ。(今日最終回だったのに、どーしてくれんだ、コノヤロー)。そんな事が頭の隅を過ぎった時に、面倒くさそうに頭を掻きながら、薄暗い裏路地に現れたのは幼なじみの総悟だった。いつもと変わらず、ぺっちゃんこな鞄を肩にかけている。置き勉してるんだろうけど、授業の予習とか復習とか大丈夫なのだろうか。ま、余計なお世話だろう(何もしなくても大体総悟は頭が良いから予習なんて元々いらないんだろうな、嫌味ったらしいけど)。そして、右手には竹刀の入った袋が握ってあった。確か後少しで大会だ、って言ってた気がする。
「この餓鬼の名前知ってるって事は知り合いか!?」
「あー、まぁね」
「何でィ。面倒事に巻き込む気かィ?つーか、その猫何でィ?」
「かわいーでしょ」
「話を聞きやがれ!」
そうだ。すっかり忘れていた。あたし今、変なヤンキーに絡まれてたんだ。しかも二人。香水かなんだか知らないけど、汗とか色んなモノで気持ち悪い臭いがする。あぁ、もうあんまり近寄らないでほしい。ただでさえ狭い路地裏なのに。こうなった発端を思い出すため、悔やまれるドラマの最終回の結末を頭の片隅に置き思い出す。確か、最初は肩がぶつかったんだっけ。それとも、足踏んだんだっけ。あ、どっちもか。原因は2つ。まぁ、どちらにせよ、こんな狭い路地で馬鹿デカイ男がこの猫の事、いじめてるのが悪いんだけど。まだ子猫じゃん?抵抗出来ない小さいモンいじめて何が楽しいんだか。あまりにもイラッときたものだから、足を踏んでやった。ついでに、肩がぶつかるフリして腹に一発入れてやった。あれ?これじゃ、原因3つじゃんか。
「あーもー煩いな」
「餓鬼ィ!人に喧嘩売っといて生意気…」
「喧嘩売ったんですかィ?」
「……猫、助けただけ」
「だそーですぜィ」
「煩ェ!!悪いのは、そっちなんだよ!!!」
そそくさと、総悟の後ろに隠れる。助けてほしいんですかィ?とか聞くもんだから猫抱えてるから殴れないんだよ、と言い返した。仕方ないですねィ。後でマック奢れよ、そう言うと袋から竹刀を取り出してヤンキー二人に向かって構えた。あ、死ぬかも、ヤンキー。
「竹刀ごときで死ぬかよ、バーカ!!」
「やっべー、コレって殺ってイイって事ですかィ?」
「つーかさ、相手が"沖田総悟"って分かってて喧嘩売ってんのかね、このお二方は」
「"沖田総悟"?そんな餓鬼知るかよ!!!」
二人同時に走り出した。バッカだな、この二人。つーか、まずセコいだろ、一対二ってフェアじゃないじゃんか(まぁ総悟が相手なら、ハンデにもならないだろうけど)。最初に攻撃を仕掛けたのは、右のヤンキー。馬鹿みたいに突っ込んできて、右ストレートを繰り出す。まさに猪。そんな猪を軽く交わして、先ずは一本。バタリ、と力無く猪が倒れる。そして、二人目の男は総悟の後ろから飛び蹴りでも喰らわせるつもりなのか、地面を蹴った。しかし、総悟はまさに後ろに目があるかの様に、左に持っていた竹刀を右に持ち替えて、後ろに向かって横スイング。飛び上がっていた男の横腹に直撃して、またバタリと倒れた。
「竹刀ってのは、使い手によって威力が違うんだよ、ばーか」
「それ、俺の台詞ですねィ」
「………さ、もう大丈夫だよー。親の元に帰りな」
にゃあ、と鳴くと子猫は塀に登り走り去っていった。俺の話は無視ですかィ、と総悟が呟きながら竹刀を袋に戻す。完全に子猫が走り去ったのを確認すると、総悟の方に視線を合わせようと振り向く。しかし、先刻いた場所に姿はなく、総悟はすでに10メートル先を歩いていた。慌てて少し足早にその場所を後にした。(ヤンキーはほったらかしだけど、何とかなるだろう)
「で?」
「何」
「なんで子猫なんざ助けたんでさァ」
「あたしが善い心を持ってるからですよ、総悟君」
「お前、猫アレルギーじゃなかったっけ?」
「あら、覚えてたの」
「手、痒いだろ」
「少し」
「で、何で助けたんですかィ?」
「んー、総悟に」
「………?」
「総悟に似てたからさ。毛並みとか色とか目とか。しかも、ちょい生意気だったし」
「………そーですかィ」
少しだけ、総悟の歩幅が広くなった。
「じゃあさ、」
「何でィ」
「総悟、なんで此処いんの?」
「………」
「あたしと違って帰り、電車じゃなかったっけ?」
「土方コノヤローと帰りたくなかっただけでィ」
不器用な君の優しさが頬を緩ませた
(ねぇ、総悟。あたし神楽に聞いたんだよ。土方、今日は風邪で休みだってさ)
20090224 加筆
20081116