銀魂


□勇者と姫
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「土方、君」



確か今日、風のエレメントは絶好調だといつも見ているテレビのアナウンサーが言っていた様な気がする。ラッキーカラーは白。ラッキーアイテムはハンカチ。家を出る直前だった私の耳に入って来たその情報を信じるわけでもなかったが、ポケットから取り出した黄色とオレンジのドット柄のハンカチを棚にしまい込み、新たに真っ白なハンカチをポケットに詰め込んだのは、今日の朝の話。ごそり、とポケットを漁ると確かにそこにはハンカチがある感触が感じとれた。その刹那、「何やってんだ」と土方君に声をかけられて、ふと我に帰る。目の前で壁に体重をまかせて座り込んでいる土方君の第一ボタンは無造作に引きちぎられていた。


「その、ごめんなさい…」

「何がだよ」

「ボ、タン…と傷」



こんなもん差し替えつくから、心配すんな、と第一ボタンがあった場所を指でなぞりながら土方君は言った。しかし傷に関しては触れなかった。申し訳ない。全ては私のせいだ。私が弱かったから。そうだ。土方君が口端から血を流しているのも、私が悪いのだ。三年の不良に取り囲まれていた私をわざわざ土方君が助けてくれた、それが事の発端だ。携帯番号がなんとかと言っている三年の先輩達に囲まれて、びくびくしていた私の前に土方君が急に現れたのだ。(先輩達が何を言っていたかは、恐怖と土方君の登場の驚きで全く覚えてない)。「なんで、土方君が…?」と聞くと「風紀委員の仕事だからな」と返してくれた。そんな土方君の言動が気に食わなかったのか、土方君と三年の先輩(因みに相手は三人)で喧嘩になった。勿論、土方君には不利だ。人数の分が悪いと言うのもあるが、それより風紀委員の肩書を背負っている以上、下手に暴力は震えないのが最も不利な理由だ。(以前、風紀委員が暴力沙汰を起こして委員長の近藤君が酷く叱られていたのを見ていた土方君は酷く悔やんでいた)。故に土方君は先輩達からの暴力にただ堪えてた。途中、それに気付いた近藤君達が止めに入って今に至る。近藤君達は先輩達を連れて銀八先生のところへ向かって行っていた。つまり二人きりとか言うやつだ。


「っ…」

「だ、大丈夫…!?」

「このくらい、大丈夫だ」



土方君は口元を流れる血を学ランの袖で強引に拭き取った。しかし、強引したものだら、傷口は広がり更に血が流れ出す。小さな舌打ちが聞こえた。その音でまた我に帰る。先ほどまで入れていたポケットから、ハンカチを取り出して土方君の血を拭った。小さく痛みに耐えるように眉が動いた。「気にすんな」と言う遠回しな土方君の制止は聞こえないフリをした。真っ白な純白の様なハンカチに真っ赤な土方君の血が付着して、じんわりと広がった。泣きそうになる。泣きたいのは土方君のはずだ。こんな、見ず知らずのただクラスメートという私を助けて怪我をしてしまったのだから。私が泣くのがおかしいのだ。ほら、土方君が混乱しちゃってる。


「な、っ…どっか怪我でも…!」

「…違くて…っ」

「っ………」

「わ…っ!」



涙を拭うために顔の前に出していた両腕をガシッ、と土方君の大きな手によって掴まれた。拭いきれなかった涙がポロリ、と零れ落ちた。スカートに涙が染み込んでゆく。開かれた視界に入ってきた土方君は逆光に照らされて上手く表情は読み取れないが、眉を潜めているように見えた。ビックリして涙がまた一粒流れた。




「そんな顔、させるつもり…なかったんだ」

「え…」

「悪ィ。もっとマシな助け方してやれなくて」




それはどういう意味だろうか。握られた腕から土方君の熱が伝わってきている。離された右手でゴシゴシと涙を拭かれる。(少し痛いが、我慢しよう)。嗚呼、なんだろ。この感じは。耳から真っ赤になっていって、顔が焼けるように熱い。いやだ、こんな恥ずかしそうに頬を赤らめた土方君は見たことがない。土方君のはじめての表情を見たような気がした。





「…そんな、事ない…よ、」

「え…」









「かっこ、よかった…です、」






20090224 加筆


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