銀魂
□天国地獄
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死ぬ、と言うのがどういうことであるかなど、生きている私達には到底わかるはずもない。死んだ後、私達はどうなるのか少しばかり考えてみた。例えば真っ黒な闇に放置されるとか、はたまた逆で真っ白な世界に放置されるとか。基本的に天国、とかいう案もあるが、まずあたしがそんな(あくまでも空想の)綺麗な世界に行けないことは、攘夷戦争で山ほどの命を奪った私が行ける場所ではないと分かっているので考えるのはやめておく。もしかしたら、死んだ先の世界は全くの異次元なのかもしれない。人が人ではなかったり、詳しく例えるなら虎が二足歩行してたり、宇宙人が溢れた世界?要するに、来世と呼ばれる世界に飛ばされるとかだ。しかし、そうなると「死ぬ」、ということは「生まれ変わる」という言い方をしなければならなくなる。ならば、「死ぬ」という単語はいらないのではないか。
「虎が二足歩行?それ、今の俺らの世界じゃないんですかー?」
「なんかいろいろ考えすぎてわかんなくなった」
前方からふわり、と伝わった匂いは甘ったるく、あたしが今まで苦労して積み上げてきた理論を溶かすかのようだった。その一口が自らを死に追いやっていることに、この男はまだ気付かないのか。糖尿病をナメているとしか思えない。つい先ほど医者に診てもらったばかりだというのに。銀時が通院していなかったら、おかずも、もう一品増える事だろう。神楽に今度そう訴えてみよう。おかずが増えれば神楽も喜ぶだろうし。
「じゃあ、銀時が考える死んだ世界って何」
「糖尿病にならない世界」
「死ね」
馬鹿だ。そんな幸せな世界なわけがない。(いや、けっきょく完全否定は出来ないのだが)。カチャカチャ、と音を立てて紅茶にいれた砂糖が円を描く。ふわり、と鼻先を掠めた香は精神を安定させる。一口口に含むと、異に流れ込んでいく紅茶の感覚に少しだけ気持ち悪くなった。
「銀時、死ぬよ」
「大丈夫。銀さん、実はガンダムだから」
「ガンダムはパフェをは摂取しません」
「銀さんガンダムはパフェを摂取しないと動きません」
「じゃあ、もう苺牛乳は買ってきません」
「ばか、それは液体型の燃料だっての!」
「何言ってるかわかりません」
紅茶と並べて置いてあった苺牛乳の余りを、強引に我が胃袋に流し込んだ。甘ったるい。よくこんな甘いものを飲めるな、ある意味尊敬するよ、銀時。飲み切れなかった分が口からツゥ、と伝った。自爆。ゲホゲホと息道に入っていた苺牛乳が戻ってくる。激しく噎せていると銀時のパフェを食べていた手が止まった。
「えろ」
さらに噎せた。色んな意味で。ついでに、側にあったクッションを力いっぱい投げた。しかし、これが女と男の差というものか。糸も簡単にクッションは銀時に受け止められた。悔しくて銀時を睨むと、「その顔、そそるわ」とか言ってきた。何しても今の銀時には無駄のようだ。
「ダメだわ、銀さんたえらんねぇ」
「は、」
「銀さんガンダム、放出しなきゃなんねぇなコレ」
「おいセクハラ。真選組呼ぶぞ」
「公開プレイすんの?」
「し、ね」
強引に触れた唇に反抗しようと固く口を閉ざしたが、これも男と女の差。簡単にこじ開けられた唇の間から銀時の舌がぬるり、と入ってくる。歯列をなぞられて、顔が爆発してしまいそうだ。酸素が足りない、と体が訴えかける。銀時の胸板を叩くと名残惜しそうに唇が離れた。苦しかったけど、何故だか疼く。
「お前さ、」
「な、に」
「今なんて思った?」
「…銀時は、なんて思ったの」
「……俺は死ぬならよォ、」
だらり、と銀時の首が下がってちょうど私の耳元に銀時の唇が当たった。体がまた疼く。耳と唇が擦れるくらいの距離で銀時は甘ったるく呟いた。
「このままキスしてお前を感じながら死にてぇ、って思った」
今貴方を愛して感じて死ぬことが出来るのであれば、この先なんてどうでもいいと思う私は身勝手な女である