銀魂
□不意打ち
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「あ、山崎」
偶然か必然か、俺は近藤さん主催の、俺の誕生日パーティーの帰りに、クラスメートの女の子と遭遇した。別に彼女と仲が言い訳でもなかったが、悪いと言う訳でもなかった。つまり普通の友達という関係を築いてきた子だった。勿論、長くいつも降ろしている髪を一つに束ね、高い位置で結ったポニーテール姿の彼女を見るのも、黒のパーカーにジーパンを着た彼女を見るのも初めてだった。あ、そういえば、名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。いや、詳しく言えば呼ばれたのは苗字なのだが。
「山崎の私服、初めて見た」
「俺も初めて見たよ」
少しだけ薄く笑い彼女は言った。(そういえば、彼女の笑う顔も初めて見た様な気がする)。そんな彼女もどうやら俺と同じ事を考えていたらしい。なんだか似た者同士の様だ、と思った。
「そういや、こんな夜中に女の子がわざわざ一人で何処行くの?」
「ああ…ちょっと寝れなくて、コンビニに行くとこ」
ポケットから取り出された長財布をヒラヒラと視界にちらつかせた彼女はふわあ、と小さく欠伸をした。寝れないと言った割には、なんだか眠たそうだった。彼女はもう一回欠伸をすると、俺の両腕に抱えた荷物が気になったのか、眠たげな目を向けた。
「ねえ。それ何?」
「ああ、コレ?みんなからのプレゼント」
「プレゼント?」
「うん、今日俺誕生日でさ」
へえ、と小さく返した彼女は「何もらったの?」と聞き返してきた。道端に荷物を一旦おいて、「こんなの」と言って近藤さんがくれた、新品の黒い財布を取り出した。すぐに彼女は興味を示し、目線を合わせるようにしゃがむと「うわ、これブランドものじゃん。けっこうするよ、コレ」と呟いた。近藤さんはこういうイベントには気を使う人だから、と返すと「見直したわ、あいつ」とまた呟いた。
「…ねえ、コレ何」
「あ、それ土方さんがくれた、」
「マヨネーズとか普通、誕プレにあげないわよ」
「…あは、そういうところ、抜けてるんだあの人。でも低カロリーのやつなんだって」
「へえ…あいつ、変わってるのね」
「ま、まぁね」
今の会話を土方さんに聞かれてたら、確実に俺は死んでいたかもしれない。なんせ、このマヨが土方さんの手から俺の手に渡るまで1時間ほどかかったからだ。その1時間というのは、マヨの素晴らしさから低カロリーなマヨの作り方まで様々なマヨ談義であって、最終的に疲れきった俺が唯一、覚えている土方さんの一言と言えば「マヨは偉大だ」という土方さんの名言だけだった。
「近藤、土方とくれば…沖田からは貰ってないの?」
「あ、ちょ…沖田さんからは…!」
「なに慌ててんの」
「いや、別にそういうわけ……って、あっ!!」
「………うわぉ、さっすがドSの沖田総悟なだけあるわ」
彼女が取り出したのは、沖田さんから貰ったモザイクのつくような題名の…その…
「えーぶい、だね」
「い、言わないでよ!」
「山崎…何照れてんの」
「照れてないよ!」
「健全な男子たるもの、見ない方がおかしいさ。恥じるな少年よ」
「ちょ、何を…」
「まあ、これはちょっと、過激的だと思うけど…ねぇ」
最悪だ。クラスメートにこんな恥ずかしいものを見せてしまうとは…屈辱だ。沖田さん、怨みます。ほら、彼女だって興味なさ気に携帯いじりだしたし…せっかく…………………せっかくなんだよ俺。何こっそり期待してんだよ。ただ道端で偶然あっただけだろ。自惚れんな俺。
「あと、15分ってところか」
「え?」
「ほら立って。行こ」
「ど、何処に!」
「は?コンビニだけど」
「…なんで」
「ブランドの財布とかAVとか…もしかしたら低カロリーのマヨより安いかもしんないけどさ、肉まんくらい誕生日なんだし奢ってあげるよ、退」
「………さ、が…る?」
「あれ?山崎の名前、退じゃなかったっけ」
「………」
「え、ちょっ…退!?」
2月6日11時46分、俺が恋した女の子からの最初のプレゼントは、150円の温かい肉まんでした。
(ふらり、君が俺の名前を紡ぐだけで)
山崎 HappyBirthday!
20090208 更新