銀魂


□素直に
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無言の帰り道が長々と続いていた。いつもならば駅から15分歩けば着くはずの私の家が、もう何時間も歩いているような気がした。歩幅の違いか、数歩前を歩いている沖田くんの背中を控えめに見つめる。剣道をしているときの背中とは何かが違った。こうも近くで沖田くんを見ることなんて絶対ない、と思っていたから心臓は破裂しそうだし、手は震えるし、息苦しいし。今の光景をファンクラブがいたら私は明日学校に登校出来ないだろう。そんな、いつもよりずっと近い沖田くんの背中は大きくてドキドキした。体だって見上げなきゃならないくらいずっと大きくて、手も大きいくて、全てがずっと近くて大きかった。



「寒くないですかィ?」

「え、あ…はい!」

「………」

「………」

「鼻」

「は、な?」

「鼻、赤いですぜィ」



立ち止まった沖田くんにぶつかりそうになりながらも(わ、顔が近い!)、ふと顔を上げると鼻を指差された。確かに今日はいつもより肌寒い。私は人よりも寒がりだからすぐ、鼻が赤くなる。いや、赤くなったのは鼻だけじゃない。少しだけはにかんだ沖田くんがあまりにもかっこよくて、夕日に照らされた栗色の髪が綺麗で見惚れてしまった。



「ん」

「え、」

「手ェ、出しなせェ」

「手…あ、はい…っ!?」

「うっわ、冷てェ」



ひんやりとしていた私の右手が温かな体温に包まれた。お、おさまれ心臓!は、速まるな、心拍数!(ちょ、何いってるか分かんないんだけど!)。沖田くんの大きな左手に捕まった私の右手はスルリと先輩のポケットに納まってしまった。あっ、温かい。すぐに、歩き始めた沖田くんの歩幅はさっきよりも小さくなっていた。さっきよりも更に沖田くんを近くに感じた。



「なァ」

「は、い!」

「アンタ、山崎と同じクラスなんだろィ?」

「えぇ…まぁ」

「仲、イイんですかィ?」

「隣の席なんで…それなりに」

「ふーん」

「沖田くんは神楽ちゃんと同じクラスですよね?」

「チャイナの事、知ってんですかィ?」

「はい!だって、」

「幼なじみだからかィ?」

「え?なんで知って…」

「馬鹿チャイナが騒いでましたからねィ。今日は親友の誕生日だ、って」



微笑んだ沖田くんは、空いている右手でポケットを漁って、いつも沖田くんが昼寝の時に使っているアイマスクを取り出した。瞬間、ニヤリと意味深な笑顔を浮かべると半ば無理矢理アイマスクを着けてきた。いっ、痛いよ沖田くん!髪の毛指に絡まってるって!



「み、見えません!」

「当たり前でさァ」

「外してください!」

「いやァ、こっちの方が燃えるだろィ?」

「何に燃えてるんですか!」

「外して欲しいなら、それでもイイんですがねィ。俺はアンタの事思って、」

「はははは外してください!」

「しゃぁねぇな。そのかわり、死なないでくだせぇよ?」



刹那、少し明るくなった視界に入り込んで来たのは、栗色の髪と薄く開いた紅い瞳だった。沖田くんが大きい。さっきよりも、ずっとずっと大きい。ふわりと香る沖田くんの香りが私の嗅覚を煽った。離れていく沖田くんは、妖艶ともとれる綺麗な表情で私の頬に手を添えた。頬にあたたかい温もりが伝わる。ふわっ、と耳にかかる沖田くんの息に体が硬直するのが分かった。あれ、今何が起きた?



「少々、卑怯かもしれませんがねィ」

「………」

「これが俺のスタイルなんでさァ」

「お、きた…くん?」



ヌルリ、耳に感じた感覚は今まで味わった事のないモノで、くちゅ、と脳内に官能的な音が響きわたった。ヤダ、顔が恥ずかしさで破裂してしまいそう。顔が赤くなりすぎて熱い。さっきまではあんなにも冷たかったのに。



「その顔、他の野郎に見せんなよ」

「え……」

「好きだ、」












(ちなみに、俺が誕生日プレゼントなんてのはどうですかィ?)





秋穂さんに捧ぐ!

秋穂さんのみお持ち帰り可能です。

20090229


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