復活


□壁
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ごろん、と寝転がればヒンヤリとした冷たいコンクリートを感じられた。特別何もないある日の昼下がりの学校の屋上。目を開ければ、綺麗な透き通った空に灰色の煙がぷかぷかと浮かび上がって、透明な空気に消えていった。あれほど禁煙しないと、って言っているにも関わらず彼はおそらく無意識に手をのばしているのだろう。



「服、汚れんぞ」

「大丈夫、それよりさ隼人煙たい」

「わ、わり…大丈夫か?」

「………ふふ、」

「……んだよ」

「うっそー」



煙草止めなよ、と言いたかったが慌てた隼人の顔があまりにも可愛くって許してしまった。惚れた弱みに付け込まれた。きっと隼人はそんなこと思ってないんだろうけれど、卑怯だ。ぱちん、と携帯を開くとディスプレイには日付と時間と隼人のかわいらしい寝顔が映し出された。この間、隼人の睡眠中にこっそり撮った貴重な一品だ。そんなディスプレイに表示された日付を見て思った。たしか、相撲大会とやらがあっておよそ1週間がたった。あの日、真夜中にジュースを買いに行こうとあたしがコンビニに向かう途中、並中の中でぼろぼろの服を着た隼人が、金髪のお兄さんと一緒にいる真っ黒なスーツを着たダンディそうなオッサンと、そしてツナや山本(ちなみにツナは泣き顔だった)から、絆創膏を顔や体中にぺたぺたと貼られていたのを見た。それは、ちょうどその相撲大会とやらがあった時だった。「理由を聞きたい」と思う一方で、なんだか話しかけちゃいけない気がして側にはいけなかった。理由は分かるはずもない。



「ねぇ…隼人」

「あ?」



寝そべっているあたしを座っている隼人が見下ろす。その顔にはやっぱりまだ絆創膏が残っていた。そっ、とその頬に手をのばすと顔を真っ赤にした隼人がいた。銀髪の髪がサラサラと揺れて眩しい。見惚れた。



「ッ…」

「痛い?」

「…別に」

「何どもってんの」

「気のせいだ」

「嘘つき」



可愛いな、顔真っ赤にしちゃってさ。(あたしよりも可愛いじゃん)。その可愛さに軽く嫉妬を覚えた。私が眉を潜めているのに気付いたのか、「お前の今の顔、好き」とか言われた。しまった、フェイント。顔が熱い。



「ね、隼人」

「ん?」

「ずっと一緒にいてね」

「あたりめぇだ」



何となく分かるんだ、隼人が考えてる事。何となく分かるんだ私たちは違うって事。だってさ、あの日だって相撲大会とか言っちゃってたけど、相撲やってて火傷したり、服が焦げたりしないでしょ?あたしだってそこまで、バカじゃない。それでもあたしの我が儘に即答してくれた隼人が大好きで堪らない。でも、それでも、



「一緒にいて」

「一緒にいないと俺がダメだ」

「離さないで」

「離せねぇよ」

「何処かに行ったりしないで」

「お前置いて行けるかよ











つーか、何で泣いてんだよ」





すっ、と隼人のゴツゴツした乾燥した手が私の頬を撫でる。嗚呼、なんで?いつの間に泣いてた?頬を伝う涙を隼人が拭う。(あ、また絆創膏発見)。その手は壊れ物を扱うかのように酷く優しくて涙がポロポロと滑り落ちた。どこまで私を泣かせれば気が済むのか。悔しいようで、それでいて嬉しい矛盾。



「…嘘つき」

「………嘘、ついてねぇし」

「隼人の癖、」

「………」

「話の間に間があく時は、嘘ついてるんだよ、隼人」

「わりぃ…」



ゴメン、はこっちだよ。そんな表情させたかったんじゃないの。



「隼人」

「………」

「ゴメンね」

「何でお前が謝んだよ」

「そんな顔しないで」

「…お前もな」

「何か…、一心同体みたい」

「そりゃ、いいな」



ははは、と笑う隼人は眩しくてキレイだった。



「最後にもう一つ聞いていい?」

「あぁ」

「隼人はさ、」

「………」

「誰?」

「……俺は俺だろ」

「ほら、また間があいた」

「………」

「私に嘘つくなんて100年はやいよ」

「…は、」

「私はただ、隼人の真実を知りたいだけだよ」

「…真実…か」

「そう、真実」

「お前にはスモーキン・ボムも勝てねぇよ」










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