「はーやーとー。どっか行こうよ」
「このクソ暑い中日差しの下歩けるかよ」
「歩くんじゃなくて、こぐんだよ」
「こぐの俺じゃねーか」
「いいじゃん、このクソつまんない公園いるよりマシ」
「女がクソとか言うな」
「熱い熱い熱い」
「うるせぇ!」
木の葉がザワザワとかすれて音を出す。ジッ、としているだけで額に汗がじわりとわいてきて、前髪に当たる。首筋も熱が篭っている様に感じた。それに対応すべく、ポケットにいれていたゴムをすかさず取り出して、髪を結ぶ。いくらかはこれでマシになるはずだ。小さく吹く風が濡れた首筋に当たって気持ちいい。ほんの少し体温が下がった気がした。
「あたしは隼人の髪、結んでるの好きかな」
「あ?」
「似合ってる」
「そ、そーか?」
「何照れてんの」
「バッ…照れてねーよ!」
暑さは髪を結んでなんとかなった。そこの問題は解決。しかし、まだ問題は残っていた。自転車の後ろに乗る俺の彼女だ。座りながら盛大にあくびをする姿は流石に見るに堪える。(まぁ、俺が言った所で止めるようなヤツでもないから何も言わないのだが)。元々、こんな暑苦しい場所にいるのも、優柔不断なこいつが「会いたい」って言い出したからここに俺たちはいるわけで。けど、惚れた弱みと言っちゃなんだが、とりあえず迎えに行って家に入れば、中は蒸し暑い空気に包まれていた。理由を聞けばクーラーが壊れたらしく、仕方なく網戸越しに風鈴の音を聞きながら昼寝をしていた。すると「暑い暑い暑い暑い!」と唸り始めた。涼しい場所に行きたいと言うから、重たい体を動かして近くの公園の木陰に来てみたわけだが、
「公園暑い」
「文句言うんじゃねーよ」
「隼人の、」
「ダメだ」
「せめて言い終わってから否定してよ」
「どうせ、ダメなんだからイイだろ」
「歯止め効かなくなるもんね、隼人」
「バッ…!!!!」
「ホントにそんな事考えてたの〜?やーらーしー」
「てめぇなァ…!」
確かに歯止めが効かなくなるのは確かだ。俺は一人暮しだし、家には誰もいない。そんな中こいつ連れて行ったりしたら俺が持たない。色んな意味で。そんな事を考えていたら、ガシャンと音がした。
「れっつごー」
「はぁ?」
「ほら前向いて」
「ほらじゃねーよ」
「取りあえず、涼しい場所」
「って言ってもどこに…」
「……あ、猫!」
「おい!」
自転車の後車輪がまた軽くなって、駆け出し始めた奴の先を見ると黒猫が欠伸をしながら隣の駐車場で眠っていた。いかにも猫のだるそうなその顔を見て思わずハァ、と溜め息がでる。そんな猫を見ながら喉をいじるあいつを見ると、なんだか猫にとられたような気がして気分が悪くなった。猫に嫉妬なんて醜いがそれは男の性としておこう。にゃあ、と鳴く猫は気持ち良さそうにしている。チラ、と猫がこっちを見てニタリと笑った……気がした。なんだ、コレ。宣戦布告ってやつか?猫に喧嘩売られたのは初めてだ。いや、喧嘩というより、ただ馬鹿にされただけか?どちらにせよ、気にくわねぇ。
「おい、」
「猫ちゃん、暑いよね〜」
「…おい、って」
「水とかさ、冷たいだろーねー」
「………あ、」
「どーしたの、隼人」
「…乗れ、後ろ」
「え?」
「いいから、」
夏色に染まる僕等の青春
(小さな浜辺で君の笑顔を見たいために全力疾走)
20090225 加筆