復活


□神様
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「おやおや。こんな古ぼけた神社に、童が来るなんて珍しい事もあるもんだね」


「君、誰だい」




雨が降っていた。酷い雨だった。見回りでもしようか、と学校を出た矢先の出来事。とりあえず、雨宿りでもしなきゃと思って近くに何かないかと見回していると古ぼけた小さな神社があった。(こんな所に神社があるなんて初めて知った)まぁ、通り雨だろうと思い、そこに向かうと、賽銭箱の上に白い着物に真っ赤な帯を巻いた黒髪の女がいた。






「童、私が見えるか」


「何言ってるの?当たり前じゃない」


「ほう、この時代にも私が見える人間がいるのか」


「話を勝手に進めないでよ」


「まぁ、いいだろ。ほらこっちへ来い。そこでは濡れる」





女が手招きをする。すると、足が一歩一歩前に進んでいく。僕は一切何もしていない。薄気味悪くなって、進みたくないと運動神経を働かせても、足は言うことを聞かずに着々と女の方に向かっていく。気付けば、僕は女の横に座らせられていた。




「君、何者?」


「私かい?」


「君以外に誰がいるの?」


「そうだな、私はここの神様さ」


「は?」




思わず出た間抜けな声に自分でもビックリした。いや、正確にいうならば1番驚いたのは、女が神様だと名乗った事。馬鹿げている。誰が自分を神だと名乗るものか。実に滑稽。




「馬鹿じゃないの、君」


「ほう、神を愚弄するか?」


「神なんて、存在しないよ」


「自分が神だと嘘をつく奴がどこにいる?」


「僕の目の前に」


「ふっ、面白い童だな」


「嬉しくないよ」





にたり、と口端をあげる神と名乗る女。なんだかその余裕ぶった表情にカチン、ときた僕はトンファーで殴り飛ばしてやろうと思って、トンファーに手をのばした…筈だった。ピタリ、と腕の動きが効かなくなって、いくら力を入れても動かなくなった。




「そんな物騒な事考えちゃいけないよ、ましてや神に向かって喧嘩をしかけるなんて」


「君…何したの」


「神の力、を使ったのさ」


「だいたい神様って言うのは、天にいるもんじゃないの?」


「まぁ、そういう神もいる。風神雷神なんかは、そういう連中さ」


「ふぅん、」


「まだ信じないかい?」


「当たり前じゃない」


「どうすれば、信じる?」


「そうだね。ならその風神雷神とやらに、この欝陶しい雨を止ませて、って頼んでみてよ」


「あんな気の荒い連中に頼まなくても、」






私の力で止ませてやるよ、女がそう言うと女は天に向かって右手を仰ぐ。すると煩い程の雨が一瞬にして止んでしまった。しかも、雨雲も消えうせてしまった。流石に呆気に取られた。次は女…いや、神様が滑稽だな、と呟いた。




「ワォ、君やるね」


「神様だからな」


「なんで止ませることが出来るの?」


「なんで、か…」


「僕、君に興味がわいたよ」


「童に興味をもたれてもな」


「酷いな、神様」


「強いて言うなら、雨は神様の涙…だからと言うべきかな」


「涙?」






長い神様の黒い髪がサラリ、と一房垂れた。そのせいで真っ白な透き通る程の神様の顔が見えなくなった。(よく見たら、神様の周りはぼんやりと光っている様に見える)何故だか、神様がその場から消えてしまいそうな気がした。白く伸びる神様の手が小さく震えているように見えた。





「それは、」


「なんだ」


「他の神が泣いてたの?」


「………、」


「それとも、君が」


「時間だ」






再び降り出した激しい雨。雷がゴロゴロと鳴り出した。賽銭箱の上からフワリ、と神様が飛ぶ。雨が降っているというのにも関わらず、神様はその中に向かって歩いていく。




「何して、」


「風神雷神が喧嘩を始めたらしい。奴ら気が荒いと言っただろう?止めに入らなければ」


「また泣いてるの?」


「さぁな、」


「何で泣いてた?」


「童には関係のな…」


「雲雀。雲雀恭弥」


「…雲雀には関係のない事だ」


「こんな古ぼけた神社、誰も来ないだろうね」


「何を、」


「僕なら、また来てあげるよ。雨の日じゃなくてもね」











雨が止んだ。
















(そうかい、ならば楽しみにしておこう)
(待っててよ、神様)





(止みかけの小雨の中、静かに姿を消した神様が酷く綺麗に笑って見せるものだから、毎日この古ぼけた神社に来たくなってしまった)
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なんじゃ、こりゃ。


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