短・中編

□Limit of ×××
2ページ/9ページ

─────
───



《X-dySor52 削除完了マデ アト 3日》


 暗い、地上の光の届かない牢屋の中で不意に、無感情で無機質な機械の声が、重厚な鎖で繋がれた僕の耳に入った。

 地上からの光が一切届かない深い深い闇の中で、牢屋の外にある、デジタル文字で描かれた「71:59:57」という数字が、一秒ごとに一ずつ減っていっているのだけが目に入った。




















 残業があったせいですっかり遅くなってしまった。僕は、早足で帰路を急いだ。

 入社して三年目。新入社員の世話と次の企画を、同時進行で進めていく。今は、そんな忙しい時期だった。
 家では今も、妻が寝ないで、ご飯を温めて待っていることだろう。無理してはいけないとこの間から言い聞かせているのに。だから、そんな妻の為にも、一分でも一秒でも早く帰りたい。

 妻と結婚して、ちょうどこの間二度目の春を迎えた。自宅のマンションの表札には「木下祐助」と僕の名前が書いてあり、「祐助」という名前の下には妻の名前が描いてある。それを見ると、未だに幸せな気分になる。そして今年の秋には、その下にもう一つ、名前が増える予定だった。
 妻のお腹には今、僕と妻の子供がいる。平凡な人生の中で育んだ、僕達の自慢の愛の結晶だ。平凡な人生だけど、確かに僕は幸せだった。
 今はちょっと会社では忙しい時期だけど、俺の家族を幸せにする為なんだと思えば、それだけで頑張れる気がした。

 ドアが閉まる直前だった電車にギリギリで駆け込み、開いていた座席に座った。地元まではこの電車で30分近く掛かるので、その時間を使ってできる範囲の仕事をやってしまおうと、鞄を開いた時だった。
 ……そこにある筈のパソコンが、鞄に入っていなかった。どうやら、会社に忘れてきてしまったらしい。
 まだ、電車に乗ってから一駅も進んでいない。ここから会社に戻るまではそれほど時間は掛からないので、次の駅で一旦降りて、引き返すことにした。




 会社には誰もいなかった。否、上司がまだ一人いるのだが、僕が引き返してきた頃にはそこにはいなかった。
 僕は急いで、自分の机へ向かった。
 案の定、僕の仕事机の上に、僕のパソコンが閉じられた状態で置いてあった。こんな大事な物を忘れるなんて。僕も相当疲れていたらしい。
 パソコンの電源がついているという印のランプが点灯しているのに気付いた。
 ……おかしいな、さっき電源は切ったと思ったんだけど。閉じられた状態だからスリープモードに移行してはいるが、電源はしっかりついていた。一旦電源を切るために、僕はパソコンを開いた。


「……?」


 パソコンにはプログラミングの画面が表示されていた。しかし、僕が入力した覚えが全くない文字が並んでいた。
 それが何なのかが気になった僕は、画面に並んだ文字を目で追った。そして……その内容を理解した僕は、目を見開いた。


「──なんだ、これ」


 その次の瞬間、ディスプレイに並んでいた文字が突然消え、新たな文字がディスプレイに並んだ。


 Error generating.Error generating.
 X-dySor52's deletion is started immediately.



_
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ