短・中編
□お題小説・タイトル
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俺は、狭い部屋にいた。
壁に掛かった蝋燭しか灯りのない、不気味な程閑散とした、狭い部屋。
部屋の向こう側に、小さな扉があった。窓も何もないこの不気味な部屋から出るには、きっとあの扉から出るしかないのだろう。
しかし、俺はそれが出来ずにいた。
俺には、霊感があるわけでもなければ壁を透視する事ができるわけではない。しかし、俺の直感は告げていた。
絶対に、扉を開けてはならないと。
俺の第六感が告げている。扉の向こうには、得体の知れない危険な生物がいると。
……恐れを抱くなんて、俺らしくない。何を恐れているんだ、俺は。今まで、数多の強敵を叩き潰してきたじゃないか。
俺が、得体の知れない何かに負けるなんて、有り得な───
ドン!!ドンドンドン!!
突然、扉を激しく叩く音が、小さな扉から響いた。突然の事だったので、らしくもなく驚いて肩をビクつかせてしまった。
扉を叩く音は、止まることなく、激しさを増していく。
こいつは何だ。俺を殺すつもりか?……いいだろう、受けて立とうじゃないか。
「来るなら来やがれ!!返り討ちにしてやっからな!!」
恐怖を打ち消すかのように、俺は扉の向こうの存在に向かって叫んだ。
叫んだ途端、扉は、ぴたりと静まった。
………
……どれだけの時間が経過したのか、わからない。
扉を壊して侵入してくると思ったのだが、扉の向こうは未だ静まり返ったままだった。
……何故、奴は入ってこない。
自然と、俺は身構えていた。俺に恐れをなして逃げたんだ、と安易に考えられる程俺は楽観的ではない。
ここに俺の武器はない。いざとなったら、素手で戦うしかないな。自分の手は極力汚したくなかったんだが、やむを得まい。
その時……扉が、派手な音を立てて、破壊された。
姿を現したのは、全身が真っ赤な、おぞましい姿をした化け物だった。
見たこともないようなその化け物に、俺の心臓が破裂しそうな程の衝撃を覚えた。しかし、それを顔に出したら俺の負けだ。
化け物は、ものすごい速さで俺に襲いかかってきた。間一髪で、屈んでその攻撃を避ける。多分大分髪が持って行かれたような気がしたが、今はそんなのは気にしていられない。
勢いよく飛びかかってきたせいか隙ができたその一瞬を見逃さず、俺は奴の懐へ飛び込んだ。
そして奴の心臓があるであろう部分に、思い切り拳を叩き込んだ。
……筈だった。
「──そんな、バカな!?」
俺の攻撃は、確かに命中した。
……が、当たりはしなかった。まるでこの化け物がガスでできているかのように、拳がすり抜けたのだ!!
だが、それだけではなかった。
化け物は俺の首根っこを鷲掴みにして、部屋の壁に叩きつけた。
「っ───!!」
内臓が破裂するのではないか、というような強さで叩きつけられる。そのまま、ギリギリと壁に押しつけられた。
そんな馬鹿な。向こうからは触れられるのにこちらからは触れられないなんて反則だ。
『……ハ………』
化け物が、俺をギリギリと壁に押し付けながら何かを言ったような気がした。
『……ル、ハ………』
「っ……!!その、声っ……!ま、まさか、おまえ…………」
ギリギリと、俺の首を締め付ける力が増していく。
俺はついに、死を覚悟した。
「っうわあああああああ!!」
ガバリと、俺は上半身を起こした。
「……はあ……はあ……何だ……?ここは家か……」
……なんだ、あれは全部夢だったわけだな。なんて奇妙な夢なんだ。
……まあ、あんなのが現実にいてたまるか……
……ん?何故俺の隣の布団が、もこっとしてるんだ………嫌な予感がしつつ、俺はその布団を剥いでみた。
────隣には、何故か世にも恐ろしい俺の親父が寝息を立てて……──
「……ふ……ふはは……まーたおねしょか……仕方ないなオルハは……ふふふ……」
「てめーのせいかああああああああああああああああああああ!!」
この日、俺の朝一番の仕事は、実の父親を処刑する事だった。
あなたのいる朝
タイトル:あなたのいる朝