短・中編
□Hey!!Everyone!!
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少年S.Yと少女
新学期が始まって、3週間が経った。
クラス替えをしたばかりのクラスでは、大体新しいクラスでのグループというものが出来上がり固まるくらいの時期だ。
それは俺も例外ではなく、クラスが変わってから俺を取り巻く環境が大分変わったように思える。そんな事をなんとなく考えながら、俺は廊下側の前から4番目の席から教室をぐるりと見渡した。
例えば、窓際に屯している二人組なんかがそうである。新聞部部長の佐伯英雄と、バスケ部の佐々岡啓吾だ。佐伯と佐々岡は、男友達の中では一番親しいと言える二人だ。
佐伯と佐々岡とは去年は違うクラスだったのだが、体育の授業では同じクラスで、その時から仲が良くなっていた。そんな俺達が今回同じクラスになった事でつるむようになったのは、自然な事だと言えるだろう。
上記の佐伯関連で割と話すようになった奴らもいる。
窓際の一番前の二つの席で話し込んでいる、顔のよく似た二人の女子。南川楓と、南川梢。テニス部のダブルスのコンビで、苗字を見ればわかる通り双子だ。
俺は一年の頃は梢の方と同じクラスであったのだが、特に接点もなくただのクラスメイト程度の関係だった。俺が仲良くなった佐伯の中学時代からの友人であったという事と、楓の方が俺の幼馴染と去年同じクラスで仲が良かったという事から、今年になってよく会話をするようになった。
一年の頃から同じクラスで仲の良かった奴は、俺の隣の列の、前から二番目の席に座っている小柄な女子。早川沙穂だ。
早川は、俺と同じ陸上部の奴だ。小学生の女子のような見た目だが、男らしくサバサバした性格だ。身長をからかって何度シバかれたのかわかったもんじゃない。
何かと趣味も話も合うので、俺にとっては親友だともいえる存在であった。
それから、学級委員の岡島愛子ともそれなりに仲が良い。去年は俺と一緒に学級委員をやっていた。おしとやかで育ちのよさそうで綺麗な子だ。
学級委員の仕事をしている時以外でも、何かと向こうからこちらに好意的に接してきてくれた事もあり、結構話す機会はあった。
もし俺に本命の女の子がいなかったとしたら、結構好みのタイプだったかも知れない―――
……とぼんやりと考えていた俺のほっぺたに、何かがむにゅっと触れた。
このやろう、地味に痛いじゃないか。こういう事をするのは、一人しかいない。俺は、なんとなく恨めしげにそいつを見た。
「やっとこっち見たね、秀くん。無視するから悪いんだよ」
俺の目の前の席の少女・三原彩が、俺の頬に突き刺した人差し指でそのまま俺の頬を何度もぷにぷにと突きながら、くすくすと笑いながら言った。
「……おい、ちょっと痛かったぞ」
「痛かった?ごめ〜ん」
そう言いつつ、彩の顔はいたって楽しそうであった。謝ってはいるが、悪いとは思っていない口調だ。まぁ、怒るほどの事でもないのだが。
「……で、なんだよ」
「次の英語の授業、当てられてたのにやってなくて!秀くん、手伝ってよ〜」
「なんだ、またやってなかったのか。彩は昔から相変わらず抜けてんな」
自業自得というものだ。当てられているとわかっていた筈なのに前日の夜中までのんきにゲームなんかやってるからだ。
あ、予習をしようとしていた彩を強引にゲームに誘ったのは俺だったっけか。まあ、ともかくである。
「ねえねえねえ!今は秀くんだけが頼りなんだよ〜。ねえ秀くん、お願いっ!」
顔の前で両手を合わせ、頭を下げて俺に哀願する彩。
「しかたねーな、今回だけだかんな」
このやり取りも一体何度目なんだろう。俺の返事を聞いた彩は、まるで花が開いたかのように満面の笑顔を見せて、「ありがとう秀くん、大好きっ!!」と嬉しそうに言った。
……全く。俺は、彩の懇願にはめっぽう弱い。俺は、「八城秀哉」と名前が書いてあるノートを彩に差し出した。俺は彩とは違って容量がいいものだから、ばっちりと予習済みのノートだ。十二分に役立つだろう。
彩は、俺のノートにかじりつかんばかりに目を走らせ、やがてものすごい速さで自分のノートに書き写しはじめた。
ものの5分もしない内に俺のノートを模写した彩は、「ありがとっ!」と言って俺にノートを返してきた。昔から相変わらず、模写するのは実に早い。