短・中編

□昔の敵は今の戦友
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「おい、姉御っ」

「陽南さん!?」


 武智達が驚いて声を上げた時には、既に陽南の姿は炎の中に消えていた。


「陽南さんっ! 待つんだ! 無茶にも程がある!」


 慌てて呼びかけるが、返事はない。武智は本気で焦った。


「君達! 体力に自信のある者はいるか!? 誰か、陽南さんを追ってくれ! 」


 本部の副隊長という権限を使って、ニコミ支部の騎士達に命じる。

 しかし彼らは不安げに顔を見合わせるだけで、誰一人として動かなかった。


「っ、なら僕が!」

「タケチ君、落ち着け」


 異常なほど冷静な声に、武智はカッとなる。


「黙れ盗賊! 人の命をゴミ同然に切り捨てる奴が、僕に指図するな!」


 激情のままに吐き捨てながら、三明の表情を見て、武智は迷う。

 彼の真摯な眼差しは、殺しを楽しむ盗賊のそれとは似ても似つかないものだった。


「“元”盗賊な。タケチ君まで突入して、共倒れになったら困るだろ。中に入るのは、火を消してからだ」


 相変わらず胡座をかいたまま三明に言われて、武智も平静を取り戻す。
 確かに、その通りだ。


「……そう、だな。しかし、僕の力では、術を放てるのは一回が限度だ。スプラッシュショット一発で、果たして火事が消せるだろうか」

「俺が何とかする。とにかくタケチ君は、全力で術をぶっ放してくれ」


 盗賊を信用するな、と頭の隅で囁く自身の声。
 だが、迷っている暇はない。


「姉御を助けてぇって気持ちを、思いっきりぶつけるんだ」


 大切な仲間を、護らなければ。


「――うおぉぉぉぉ! 水よ! 弾けろぉ!」


 杖を構え、力の限り叫ぶ。


「『スプラッシュショットォォォ!』」


 激しい水柱が、杖先から吹き出した。

 全身全霊を込めた武智は、猛烈な脱力感に襲われ、その場にへたりこむ。
 同時に、元々座ったままの三明が小太刀を掲げた。


「『光鏡・穹窿(きゅうりゅう)』」


 途端、炎に照らされていた景色が一層明るくなる。

 三明の術で現れたのは、朱門雀との戦いで見た光の盾ではなく、ドームのような形状をしていた。


「……っ」


 光のドームが水柱を、そして火事の家を包み込み、内部で勢いよく水が降り注ぐ。


「空見!」


 火が消えた瞬間、三明が前のめりに倒れた。

 魔剣士は、魔術士ほど術の力が強くない。大技を使うのはかなり辛いのだろう。


「上手くいった、な」


 億劫そうに頭をもたげて、三明が目を細める。

 武智も自然と笑みを浮かべ、だるい身体を地面に投げ出した。


「当たり前だ。僕は夕騎士団の一員――仲間を信じ、護るのが使命だからな!」





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