短・中編

□昔の敵は今の戦友
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 その後、陽南と子どもを救出して医者に見せ、その間に三明から改めて詳しい事情を聞いた。

 彼に対する疑念はもうほとんど消え去っていたが、唯一、武智の精神を揺るがすワードを耳にすることになる。


「銀牙盗賊団、シルバーファング……?」


 昔、陸奥家の別荘を一つ潰した盗賊団だ。

 家の者は無事だったが、何人かの使用人が命を落とし、建物は焼き払われてしまった。


「あぁ。俺さ、タケチ君達を襲ったヤツらの中にいたんだと思う」


 意識の戻らない陽南を宿まで背負って運び、ご機嫌だった僕は、それを聞いて危うく彼女を落としかけた。


「処遇は、任せる。タケチ君にはその権利があるからな」


 三明は自嘲を漏らして屋根に上がり、結局、部屋には一晩中戻ってこなかったのだ。

 そして、翌朝。武智は今、ベランダからボンヤリと外を見下ろしている。


「はぁ……」


 視線の先は、日課の鍛練で剣を振るう金髪頭だ。

 武智は未だ眠り続ける陽南を振り返る。
 彼女なら、どうするだろう。


「陽南さんなら……きっと、許すんだろうな」


 完膚なきまでに叱りつけて、それから日溜まりのような笑顔で受け入れる。そんな姿が容易に想像できた。


「……僕は」


 自分は、そんなに真っ直ぐな人間ではない。
 貴族としてのプレッシャーや、実力が伴わない劣等感で、随分捻くれてしまった自覚もある。

 それでも、陽南に憧れ、彼女のような強い人間になりたい。この気持ちは本当だ。


「――よし!」


 武智は気合いを入れ、勢いよく自身の両頬を叩いた。


「〜〜っ!!」


 ちょっと力を入れすぎて、かなり痛かったが。

 まぁとにかく、陽南が目覚めて、三人揃った所で、ちゃんと今の気持ちを話そう。


「おーい、空見!」


 自分で驚くほど自然に、武智は外へ向かって呼び掛けた。

 人は変われる。三明も、盗賊から変わることができた。自分だって、きっと変われるはずだ。


「朝食の時間だ! 食堂に行くぞ!」


 いつか、きっと。







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