フリリク
□それは魔法と言えるような
1ページ/2ページ
子ルク+ガイ
―――――――
クレヨンの独特の臭いが部屋を漂う。
あぁ、早く逃げ出したい。
「…ルーク、いつまで描いてるんだ?」
声をかければルークは振り返る。
憎らしい程ににこやかだ。
「もうちょっと!ガイはまだみちゃだめなの!」
「…わかってるよ」
そう言うとルークは安心したのか、また絵を描く事に没頭し始める。
10歳の子供が、だ。
ため息をついてルークの小さい背中を見る。
何故自分には見せないのか、とか、もうどうでもいい。
ただ、このぐるぐると嫌な思考に突き落とす臭いから解放されたい。
(早く終われ)
そもそもなんでルークは絵を描きたいだなんて言い始めたんだ。
いつもは勉強とか、紙に向かって何かする事を嫌がるくせに。
別人だ、別人だ、そう言う屋敷の人間の声が頭の中に響く。
誘拐される前のルークは大人びていて、勉強もできて、作法もきちんとしていた、と。
俺は前のルークに良い印象なんてなかったし、何よりただ早く殺したかった。
殺したくて殺したくて仕方がなかった筈なのに、この目の前の子供には何故か同じ気持ちは湧かなかった。
真っ白で、きらきらした瞳を向けられたら、そんな事を考えられなくなった。
…俺は、ルークをどうしたいんだろう。
決意を鈍らせるあの瞳が憎い。
言う事を聞かないで我が儘な所が憎い。
けれど、あの笑顔を見たら、何も言えなくなってしまう。
(…俺、は…)
「――ガイ!」
はっと、ルークの声で意識が戻ってくる。
いけない、考え込んでしまったようだ。
「あ、あぁ。どうした、ルーク?」
「できた!」
目の前に突き出された紙に描かれたのは、とても10歳が描いたとは思えないような下手くそな絵。
「…これは…」
下手くそだけど、一生懸命描いたという気持ちは伝わってくるような、不思議な絵。
「…俺?」
問い掛ければ、ルークは眩しいくらいの笑みを浮かべて頷いた。
「ガイ、だいすきだよ!」
そう言って抱き着いてくるルークに、さっきまでの嫌な気持ちなんてなくなって、
「…俺もだ。ルーク」
ただ、目の前の子供を愛おしく思った。
――END――
後書き→