□産まれたことが罪なのか。
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「母上」


呼んでも返事をしてくれないのはいつもの事。


「…頭が痛いの。呼ばないでちょうだい」


出ていけ、と言われるのも慣れてる。

心がぎゅっと掴まれたように痛むのも、慣れてる。


それでも懲りずに、また僕は話しかけるんだ。









「母上!見て、雪!雪が降ってる!お外に出てみようよ!」


窓に触れれば、硝子は氷のように冷たかった。

今日も、いつものように邪険にされる事はわかっていたけれど、口はいつの間にか動いていた。



「…そうね。たまには、良いかもしれないわね」


しかし、『あの人』は煩わしそうに、けれど優しい声でそう答えた。






「すごい!」


きらきら光る一面の白。

全てが白に塗り潰されていて、いつもと違う景色だった。

その白が自分には綺麗に見えて、遊ぶ事に夢中だった。


「ねぇ、見て!母上――…」


初めて感じた温もり。

それは白と共に降る『赤』と背中への衝撃と一緒に与えられた。


「は、はうえ…?」

「…は、ぅ…ゼロ…ス…」


血と共に吐き出された言葉が自分の名前だと理解するのには時間がかかった。


「――っ母上!血が…!血がいっぱい出て…!」


声を荒げる子供の頬に触れた手は酷く冷たくて、背中を何か冷たい物が伝った。



「お前なんて生まなければよかった…」



今まで見た事ないくらいの微笑み。

頬から滑り落ちた手は1度ゴムのように弾んで白に沈んだ。


次から次へと降る白は全てを白に塗り潰すだけでなく、色も、音も、『この人』も、無くしてしまうんだ。


今はもう、頬を伝うこの水さえも名前が思い出せない。







産まれたことが罪なのか。




それは誰への問い掛けなのか、自分でもわからないまま、再確認するようにそっと目を閉じた。









お題配布:白い華


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