捧
□包み込む温かさと優しい笑顔
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ほてったような、この体になってから感じた事のないような、不思議な感覚。
朝から何だかおかしい気はしていたが、
「……ぅ…」
これは、駄目だな。
視界がぐにゃりと歪んで、足元から崩れ落ちた。
「しきかんさま!大丈夫ですか!?」
扉を壊すかの勢いでマシュマロが部屋に入ってきた。
ベットでさっきまで寝ていたとはいえまだ体に不具合でもあるのか、頭がガンガンと痛む。
余程急いで来たのか荒々しく息をするマシュマロに目をやれば、せっかく朝はきちんとしていた筈なのに、服は着崩れ、髪はぼさぼさになっていた。
「…私を心配する前に、まず自分の見た目をどうにかしたらどうだ」
マシュマロは少し恥ずかしそうに微笑んで、素早く直した。
「…なんでここに来た」
「あの、しきかんさまが倒れたって聞いて…!」
「…だから?」
マシュマロはしゅんとしたように声を落とした。
「…心配、しました…」
その様子に何故か胸がずくりと痛んだような気がして、マシュマロから目を逸らした。
「…もうだいぶよくなった。だから持ち場に戻れ」
「…嫌、です」
「…おい」
「嫌です!」
その勢いに、言葉が出て来なかった。
マシュマロは顔を俯かせていて、表情は見えない。
「嫌、です…。嫌です…!何でですか!?何でしきかんさまはそんなに1人になろうとするんですか…!どうして…!」
ついにマシュマロはぼろぼろと泣き出してしまった。
鳴咽を漏らすマシュマロに、何をしてやればいいのかわからない。
手をのばそうと思ったけれど、泣き続けるマシュマロに触れてはいけないような、越えてはいけない領域があるような気がして、のばそうとした手を戻した。
「しきかんさま」
戻した手を、温かい手が包んだ。
「1人は寂しくて、辛いです」
「…そんな事……私は平気だ」
「しきかんさまは強いです…。…でも、マシュマロはしきかんさまが1人でいるのは嫌です」
私の手をマシュマロが両手で包み、ベットの側に座る。
「だから」
漸く、マシュマロが顔を上げて、涙に潤んだ紫の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
「マシュマロが、しきかんさまを1人にしません!」
さっきまで泣いていたせいか目尻を赤くしたマシュマロが微笑む。
目の前の笑顔に、手を包む温かさに、何故か泣きたい気持ちになった。
「…私は…」
うろたえているのがわかったのか、マシュマロは困ったように笑って、私の手を離した。
「すみません。いきなりこんな事言われても困りますよね」
「…いや…」
マシュマロは涙を拭いながら立ち上がり、皺になったスカートを伸ばした。
「まだ体辛いですよね?マシュマロ、何か元気の出るものを作ってきます」
にっこりと微笑んで、マシュマロは部屋から出て行った。
出て行く直前マシュマロは振り返って、
「マシュマロは、欲張りなんです」
と言ってまた笑った。
何が、とか思ったが、急に眠気が襲う。
「あいつの相手は…疲れる…」
それでも、何故か口元からは笑みが零れて、眠気に私はそのまま目を閉じた。
最初のような不調も消え、残ったのは不思議と満たされた心だけだった。
「…ゆっくり、休んで下さいね」
髪を撫でられる感覚に、懐かしい気持ちになって、意識は落ちて行った。
――END――
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