屍鬼

□焦がれる、願う
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太陽に照らされて、きらきら光るあの黒い髪が好きだった。


構えば、少しうざがるけど、結局は折れて受け入れてくれる優しさが好きだった。


たまに見せる笑顔が好きだった。


気まぐれに家に来てくれるのが嬉しかった。


頼ってくれるのが嬉しかった。





なのに、俺は…夏野を殺した。




いくら嘆いても、いくら涙を流しても、夏野は帰ってこない。


いや、帰ってきてはいけなかったんだ。




「―――徹ちゃん」




2度と聞けないだろうと思っていた、酷く懐かしく感じる声で、俺の名前を呼ぶ。


けれど、目の前の瞳は冷たくて、心を深くえぐった。


まるで、許さない、とでも言うようで…酷く恐ろしくなった。



それでも、夏野の傍に居たくて、危険だとわかっていたけれど、俺は夏野の願いを叶えようとした。





「…夏野の願いは、叶ったかな…」



掠れて、情けないような声が出た。

火事なのだろうか、煙がここまで入ってきている。


「…夏野、くんの…願い…?」


隣に座る律ちゃんの小さな声が聞こえた。


「…夏野は、俺らを殺そうとしているんだ」


夏野は、屍鬼の抹殺を願っている。


「…きっと、もうすぐ俺らも死ぬ。殺されるんだ。…でもきっと、それは夏野にじゃない」

「…夏野くんに、殺されたかったの…?」


律ちゃんの手を握る力が強くなる。


「…どう、なんだろう。殺されたかったのかな…」


本当は、わかってる。


俺は、夏野に殺されてたいんだ。


そして――…




ぐらりと視界が揺らいだ。


あぁ、時間だ。







「…俺は…夏野に許されたかったんだ…」








――END――






瞼が閉じる直前、ずっと焦がれた姿が見えた気がした。





「…夏野…ごめんな。…大好き、だったよ……」







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