屍鬼

□届かない、伝わらない。
1ページ/1ページ

『焦がれる、願う』の夏野視点。




太陽に照らされてきらきら光るくせっ毛にいつも目を引かれていた。


いつも構ってきて欝陶しかったけど、なんだかあったかくて拒めなかった。


俺の言葉に落ち込んで、笑って、ころころ変わる表情が見ていて飽きなかった。


一緒に居て、安心した。



だから、つい、頼ってしまった。


俺が、頼ったせいだ。

そのせいで徹ちゃんは死んでしまったんだ。


辛かったけど、涙は出なかった。

いっそ、流れてしまえばこんな気持ちにはならなかったのに。



徹ちゃんが起き上がってくれて、嬉しいだなんて――…






毎日、俺の部屋の外で死んだ俺に懺悔する姿を見たら、そんな事思ってしまった自分を酷く醜く思った。


徹ちゃんは、起き上がってはいけなかったんだ。



『アイツら』がいなければ、徹ちゃんは死ななかった。

『アイツら』がいなければ、あのつまらないけれど何故か心を満たす日常を過ごせていた。



『アイツら』がいなくなれば、徹ちゃんは苦しまない?

違う。

今更いなくなったって、人間に戻れる訳じゃないし、謙正に住む奴らだけがいなくなっても意味がない。


だから。




「…夏、野…」




ごめんね、徹ちゃん。












火が強くなってきた。

身を焦がす炎に竦む暇なんてない。


「…っ徹ちゃん…」


漸く見つけた小屋の中に入れば、寄り添うように座る人影が見えた。

あぁ、もうすぐ朝なのか。

看護婦の人は酷くやつれていて、2人とも死んだように眠っている。


ふと頭の端で、この方が幸せなのかもしれない、と思った。

いっそ、このまま…



「…夏野…ごめんな。…大好き、だったよ……」



ふっとその声に現実に戻された。


徹ちゃんの声。

起き上がってから聞いた、不安と罪悪感の混じった声じゃない。

あの頃と同じ、あったかい声だ。


閉じていたと思っていた目はうっすらと開いていたが、今にも閉じてしまいそうだった。

口元も笑っていた。


「…徹ちゃん」


そっと近付いて、徹ちゃん手をとる。

冷たい、死人の手。


やはり抗えなかったのか、瞳は閉ざされていた。


「…徹ちゃん」


目の前で眠っているのは、確かに徹ちゃんだ。

動いていたし、言葉も話して、感情もある。

だからこそ、このままではいけないんだ。


持っていた杭を握り直す。


「…ごめんね」


狙いを定めて、一気に振り下ろす。


「…俺も、大好き」







――END――






あぁ、何て無駄な言葉。


でも、なんでこんなに切なく、温かくなるのだろうか。




「…『だった』じゃない。今も、だよ」




そっと小屋から出て、空を見上げる。


あぁ、朝が来る。










―――――――
時間軸がおかしいのは目をつぶって下さい(´∀`)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ