テイルズ短編

□冷たい、温かい
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「……」


ベットの上で丸まっていても苛立ちは収まらない。

ぎゅっとシーツを握って目を閉じればそれも紛らわす事が出来るかとやってみたけど、全部無意味。


全部全部デクスのせいよ。

アイツが悪いの。


「…〜〜!」


勢いよく跳び起きて部屋を出る。


アイツが悪いんだから、1回、いえ最低でも7回くらいは叩いてやんないと気が済まないわ。


ズンズンと大股でデクスの部屋へ向かえば、廊下を歩いている奴らはさっと引いていく。


ふん、存在が邪魔なのよ。


「デクス!入るわよ!」


ノックをしないでいきなりドアを開ける。

デクスに気を使う必要はないわ。


部屋へ入れば服が散乱していた。


「ちょっとぉ!デクス!」


叫んでも虚しく部屋に響くだけ。

眉を寄せて顔をしかめれば奥から布の擦れる音が聞こえた気がした。


「デクスー…?いるの?」


コツリコツリと靴の音が響く。

ガチャリとドアを開ければそこはベットルーム。

部屋は真っ暗で、電気をつければ足元に青紫の髪が見えた。


「っデクス!?」


デクスは床にへたり込んでいて、目は虚ろだ。

体が冷えていく。

ガクガクとデクスの体を揺らす。



何必死になってんのよ。



どこかで冷めた自分がいる。


それでも何故か瞳に涙が溜まってくる。



違う、違うの。


アリスちゃんはデクスなんかに必死になったりしないの。


アリスちゃんは冷酷に任務を遂行すればいいの。


アリスちゃんは、

アリスちゃんは、


…私は。





…わからないの。



私は『アリスちゃん』なのに。

『アリスちゃん』は私なのに。



何で、泣いているの。



いつの間にかデクスの事を揺さぶるのは止めていて、ただ泣いていた。








「アリスちゃん」




聞き慣れた、耳に馴染む声。

冷たい指が涙を拭う。



「デ、クス…」


さっきまでの虚ろな瞳ではなく、優しい温かい瞳だった。

ふわりとデクスが笑う。


「泣かないで、アリスちゃん」


笑わないでよ、その言葉は声にならなかった。


「…出かけるん、でしょ…?」

「…うん」


ごめんね、と言って手を掴まれた。


「まだ間に合うかもしれないから」


デクスはまた綺麗に笑った。


そんな風じゃなくて、いつもみたいにバカみたいな顔で笑った方がいいなって、デクスの後ろ姿を見て思った。



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