テイルズ短編

□大嫌いな君へ。
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イスが悲鳴をあげる。

軋んだ嫌な音が鳴って、まるで自分のようだとロイドは思った。

きっと、自分の心もこんな嫌な音をたてて悲鳴をあげているのだろうと。


ため息をはいて改めて自身の体を見て、唇を噛み締めた。

鮮やかだった筈の赤が赤黒いもので塗り潰されている。

上からなぞれば、それはまだ少ししっとりとしていて、本当なんだと痛感させられる。


「…俺が、殺した」


言葉にすれば、その現実は更に胸に突き刺さる。

きっとこれは一生抜けない刺なのだ、と自嘲した。



コンコン、と少し躊躇するような音が扉を叩き、やがて開いた。


「…コレット」


自分でも情けない声が出たな、とロイドは思った。


「…こんな時に、ごめんね?ロイド…」


見ているこちらが泣きたくなるような顔でコレットはロイドを見つめる。


「大丈夫だ」


微笑んで言えば、コレットも少し微笑んだ。


「…あのね、これ…」


カサリ、と音をたててロイドの目の前に突き出されたのは、白い封筒だった。

ロイドがそれを受け取れば、コレットは安心したようにまた微笑む。


「…それね、ゼロスからの手紙なんだよ」

「ゼロス…からの…?」


手が震える。

誤って落としてしまわないように、ロイドは両手で手紙を握り締めた。


「それを貰ったのは、実は結構前なの。私がロイドに渡したい時に渡していいから預かっていてくれって」

「…何で今なんだ?」


そう聞けばコレットは悲しそうに目を伏せた。


「…それを私に渡した時のゼロスの顔が、頭から離れなかったの」


まるでこの先の未来をわかっていて、悲しみを押し殺しているような目で笑っていた顔。

ロイドには、そんな顔をしたゼロスを想像できなかった。



「読んで、あげてね」


最後にまた微笑んで、コレットは部屋を出て行った。

残されたロイドは1度強く拳を握り、息をはいた後、封筒を開けた。






ロイドへ

きっとこの手紙を読んでいる時、俺はいないんだろう。
うわ、このセリフすげぇありきたり。
でも、きっと本当にそう。
コレットちゃんは頭がいいから。
ロイド君なんかと違って。

ロイドは頭が悪くて赤いくせにトマトが食べられないし。
それなのに馬鹿みたいに熱血だし意外と鋭いし。

俺は、そんなお前が大嫌いだったよ。






「…はは、大嫌い、か…」


好きとまではいかなくても、それなりに仲良くできていたと思っていた。

全部、まやかしだった。


…いや、違う。

自分がゼロスを信じていなかったのだから。

上っ面だけの関係だったなんて、当たり前だ。


「…ほんと、今更だな…」


震える手から、白い紙が零れ落ちる。

慌てて拾えば、それは2枚ある事に気づいた。




でも、




1枚目にはさすが貴族というべきか、読みやすい綺麗な字でびっしりと文字が書いてあった。




大嫌いだけど、




2枚目には、紙の中心に震えた線でたった1言。






愛してたよ






涙を拭う事もせず、ロイドはただその文字を目で追った。


「…俺、も…っ…」


喉が引き攣る。


「愛してた…っ」



掠れて漏れた声は部屋の冷たい空気に溶けた。




――END――


(愛してたから、信じられなかったのかもしれない)

(今更そんなの、ただの言い訳だけど)

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