テイルズ短編
□それは悪夢と呼ぶにはとても
1ページ/1ページ
ルカスパ
―――――――
飛び散る鮮血と、鈍い感覚。
酷く吐き気を催すが、勿論自分は吐く事などできない。
何故ならば、自分はその為に作られたのだから。
血の滴る感触に、あぁ終わったのだな、とどこか遠くで思った。
(待て、違う)
ちゃきりと、まるで考え事をしていた自分を咎めるかのように主は私を持ち直した。
(…違う。俺は)
「考え事か、●●●●●●」
(違う。それは俺の名前じゃない)
視線をやれば、白髪の魔王。
『ふ…、ならば我にそんな時間を与えなければよいだろう』
「私はお前をただの剣だと思いたくはないのだよ」
絵空事を、と思った。
(…やめろ)
どうせ、この男も同じなのだろう。
酷い虚無感が体を襲う。
「●●●●●●、どうした?」
『…なぁ、●●●』
(やめろ)
『お前は俺を』
「やめろ…!!」
はっと目を覚ませば、固いベットの上だった。
いつも、あそこで目が覚める。
「スパーダ?どうしたの?」
いきなり叫ぶから驚いちゃった、と俺に駆け寄りながらルカが話し掛けてくる。
「…ル、カ…」
目の前に居るのは、夢の中に出てきたあの魔王じゃない。
「…ルカだ」
心配そうに顔を覗き込んで来たルカに、縋るように抱き着いた。
安心する、ルカの匂いだ。
「どうしたの?スパーダ」
さっきよりも大分落ち着いた、優しい声。
今、俺は人間で、ルカも人間だ。
世界も平和とは言えないけれど、あの時みたいな、ただひたすらに殺し合うような戦争は無い。
自身を赤く汚さなくてもいい。
「…でも、不安なんだよ…」
温かくて安心するのに、心を襲う虚無感はなんだろう。
「…不安、なんだ…」
きつくルカを抱きしめれば、答えるように腕をまわしてくれた。
「大丈夫だよ、スパーダ」
顔を上げれば、ルカはふわりと微笑む。
「僕は君を置いて行ったりしないし、1人にしないよ」
ルカの言葉に、前世の自分が言った忌ま忌ましい言葉を思い出した。
「…やめろ、ルカ。俺は…あんな弱い自分や嫌なんだ」
「弱くていいじゃないか」
「よくねぇ…!俺はルカを守るって決めたんだ…!」
「弱いのは、誰かに縋るのは、生きて、心がある証拠だと思うんだ」
ちゅ、と瞼にキスを落とされる。
「だから、笑って?スパーダ」
不思議と満たされる心と共に、小さく笑みが零れた。
――END――
「…ありがと、ルカ」
「どういたしまして、スパーダ」
顔を見合わせて、2人して笑った。
『お前は俺を捨てないか?…1人に、しないか?』
魔王はまるで愛しい者を見るように優しく目を細めた。
「当たり前だろう。お前がいくら嫌と言おうとも、離したりはしない」
そうか、と短く答えて、まるで何ともないように振る舞ったが、不思議と心は満たされていた。
――――――
精神的に弱ってるスパーダが書きたくなった結果。因みに夢に出て来たのは勿論アスラとデュランダルです。