テイルズ短編
□溶かして、とけて
1ページ/1ページ
ふと、自分は何故生きているのだろう、と思う時がある。
母親に存在を否定されても生きる理由とはなんだろう。
そんなに、自分は生きたいのだろうか。
笑っても、虚しく、偽りだらけだというのに。
俺は、生きたいのだろうか。
「…はーぁ…」
漏らした息は白くなり、ふわりと消えていった。
かじかんだのか、手の感覚は無いに等しい。
肩に、頭に降り積もる白い雪にいっそう気が重たくなる。
せっかく仲間達から離れたというのに、気持ちは重くなるばかりだ。
「…こんなことならまだあっちに居た方がよかったかもなぁ…」
感覚の無い手をぎゅっと握る。
まめだらけで、貴族らしくない手。
本当は剣なんて握らなくてもいいのに。
「…そこまでして…俺は…」
ざくり、と雪を踏む音が聞こえた。
勢いよく振り返れば、そこには驚いたような顔をしたロイドが居た。
「ど、どうしたんだよ」
「…い、や。なんでもない。…足音が聞こえたから可愛いハニーが向かえに来てくれたのかな〜なんて思っただけだよ〜」
「なんだよ、それ」と近くに寄って来たロイドに小突かれる。
「心配して損したじゃんか」
「…心配?」
「するに決まってるだろ」
澄んだ瞳が見つめてくる。
「だってずっと何か思い詰めたような顔してるからさ。なんか悩みでもあるんじゃなかって思って」
「だから?」
「悩みがあるなら聞くぜ?」
「…悩みねぇ…」
雪で湿った赤い髪を撫でる。
「ロイドくんは、なんで生きてるの?」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ、みたいな目をして訝しんだように俺を見るロイド。
実際何言ってんだこいつって思っているんだろうな、なんて思って目を細めた。
「生きる意味ってやつだよ。何で生きてるんだろうなって思ったからさ」
「…そりゃあ死にたくないし。殺されたくないし」
きっとロイドはこの旅での事を言っているんだろう。
そりゃあ、そうだ。
ロイドはきっと、平和な田舎の暮らしの中でこんな事を思った事なんてないんだろう。
「…じゃあ、誰にも殺される事のない世界だったら、ロイドはなんで生きてるんだ?」
そう言うとロイドは困ったように頭をかいて「難しい事はよくわかんねぇよ」と言った。
その答えに、何故か張り付けたような渇いた笑みが零れた。
「…でひゃひゃひゃ!やっぱりロイドくんには難しかったか〜」
なんとなく今の顔を見られてはいけないような気がして、ロイドに背を向ける。
「ちょっとした言葉遊びだって、も〜、ロイドくんったら本気にするんだから!俺さま先に戻ってるぜ〜」
ひらりと手を振って歩き出そうとした。
「ゼロス」
その筈だったのに、少し固くてごつごつした手に阻まれてする事はできなかった。
雪が降っていて、身を切るような寒さだというのにロイドの手は温かかった。
「難しい事はわかんないけどさ、やっぱり俺は皆を守りたいから。死ぬ訳にはいけないんだ」
「ロイ…」
「それが、生きる理由じゃ駄目か?」
言葉に詰まる。
ロイドは真剣な目をしている。
「だからさ、そんな顔すんなよ」
泣きそうだぞ、と言ってロイドは笑った。
「…守る為に生きる、かぁ…」
呟いて、ロイドの手をそっと離す。
「おい、ゼロ…」
「ロイドらしくて、いいんじゃねぇ?」
今度は自然と笑いが漏れた。
「守る為、うん。いいな」
もう一度噛み締めるように呟いて、ロイドが来た方へ歩き出す。
「ほら、戻ろうぜ。ロイド」
そう言えばロイドは慌てて後に続いた。
「ゼロス」
「なんだよ?」
「もう、大丈夫か?」
「…うん。もう、大丈夫」
どこか清々しい気持ちで、そう返した。
――BND――