テイルズ短編

□特別な日。特別な君。
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デクアリ
―――――――



頬を染め笑う女の子と、それを見て微笑む女の人。

それを羨望の眼差しで見ていると、急に視界が赤く染まり、笑っていた女の子の顔が歪んで、ついには泣き初めてしまった。

血溜まりに沈む、男女の体。

視界が急回転して次に写ったのは、お墓の前で泣く女の子。

その後にも孤児院、そこにいる子供、と視界が変わり続ける。

そして回転する視界に、青い髪の少年とも青年ともつかない男が写った。

酷い顔をした女の子に笑いかける、男。


なんて、馬鹿なのかしら。






「……嫌な夢を」


ぐっと奥歯を噛む。


「…なんで、アイツなんか出てくるのよ」


ため息をついて起き上がろうとしたが、体に力が入らなかった。

しかも心なしか体も怠く、顔がほてったような感じがする。


「……嘘でしょ…」


この私が熱を出すなんて。







「アリスちゃぁあぁぁあぁん!!熱が出たんだって!?大丈夫かい!?アリスちゃんのナイトの俺が今看病を…!」

「…うるさい。黙ってちょうだい。頭に響くのよ」


ばっさりと切り捨てると、さっき扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきた奴とは思えないほどしょげて小さく「…ごめんよ。アリスちゃん」と言った。

今度は小さくて聞き取りずらかったけれど、面倒臭かったから何も言わなかった。


「…わかったなら早く出てってちょうだい」


こんな弱ってる姿、誰にも見られたくない。

布団に丸まり直して言えば、デクスは何か考えるようにした後、部屋を出て行った。


これで、いいの。

今近くにアイツが居たら、縋ってしまいそうで、甘えてしまいそうで、そんな事を考えてしまう自分が嫌。


だから、寂しいなんて、こんな気持ち、嘘なのよ。









そっと額に乗ったひやりとした感触に目を開けると、目の前には青い髪の、さっき部屋から出て行った筈の…


「…デクス…?」

「あ、ごめんよ。起こしちゃった…?」


そっと伺うように顔を覗き込んで来た顔に、何故か少し安心した。


「…何、してたの」

「いや、アリスちゃんは熱が出てもほっとくんだろうなって思ったから…。やっぱり少しでも何かしてあげたくて。…これくらい、いいかな…?」

「……好きにしたらいいわ」


そう言うとデクスは笑った。

その顔が夢に出てきた男と同じ顔をしていて、変わらないデクスにふっと息を吐いた。


「…あ、と…俺邪魔だよね。もう出てくから」


何を誤解したのか、少し寂しそうな顔をして、デクスは立ち上がろうとする。


「…ア、リスちゃん…?」

「…いいわ」

「え?」

「…出て行かなくていいわ。…ここに居て」


デクスが立ち上がるの阻止するために服を掴んだ手を離そうとしたら、デクスに勢いよく、けれど優しく握られた。


「っうん!ここに居る!ずっとアリスちゃんの傍にいる!もう離さないんだから!」

「っもういいから!私は寝るわ!」


手は繋がれたまま、私は目を閉じた。

きっとデクスはまだ笑っているんだろう。


まぁ、たまには、こういうのも、悪くはない。




(今日だけ、なんだから)




明日からは、またいつものアリスちゃん。







――END――



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