テイルズ短編

□Handkerchief
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ジュイバ
―――――――



ぽつりと頭に雫が当たったように感じて顔を上げれば今度は頬に雫が当たる。


「うわ、雨だ…」


朝から雲行きが怪しいとは思っていたが、本当に降るとは。

そのまま突っ立っていると、さらに雨が強くなってきた。


「うわわ…っ」


持っていた鞄で頭を雨から守りながら、雨をしのげそうなところを探す為に走り出した。







「っは、はぁ……ここなら、大丈夫かな…っ?」


日頃の運動不足がたたったのか、上がった息がなかなか普通に戻らない。

深呼吸をして息を調えながら雨の降る景色に目を向ける。


雨が地面にたたき付けられる音が響く。


ふと、ぼやけてあまり見えなかったが、遠くの方から白い影が近寄ってくるように見えた。


「…人?」


よく見ればそれはこちらへ走ってくる同い年くらいの男の人だった。

そのままその人は僕の横に並ぶようにして立った。


僕よりも遅く来たせいか、その人は結構雨に濡れていて、白い髪からはぽたりと雫を垂らしている。


「…あ、あの、よかったらどうぞ!」


ぷるぷると雫を落とす為か頭を振っていた横に立つ人にハンカチを差し出す。


「……」

「あ、大丈夫ですよ。まだ使ってませんから」


そう言って笑うと、目の前の人は少し眉を寄せた後、ハンカチを手を取った。


「…感謝する」

「い、いえ」

「……」

「……」


無言が痛い。


「あ、あの!災難ですね、こんな雨に当たるなんて」

「あぁ」

「……」

「……」


もう駄目だ。

いつもはそんなに気にならない筈の静寂が、何故かこの人とだと酷く気になる。


「……お前」

「は、はい!?」


考え込んでしまっていたのか、いきなり声をかけられて、声が裏返ってしまった。


「中学生か?」

「え、あぁ、はい。そうです」


ちらりとこちらに視線をやったその人は僕の制服をじっと見てきた。


「そこは俺も通って所だ」

「あ、そんなんですか」


じゃあ貴方は高校生なんですね、とかいろいろ聞いてみたいことはあったけど、何故か目の前の人を見ると言葉が出なくなった。




「…おい。雨、上がったみたいぞ」

「え!?あ、あぁ、本当だ」


視線を上げれば、確かに雨は上がっていてうっすらと陽も出ていた。


「これ、洗濯して返す」


そう言ってその人はハンカチを自分のポケットの中に仕舞ってしまった。


「そ、そんな気にしないで下さい…!」

「俺がわざわざ洗って返すと言っているんだ!断る方が失礼だと思え」


急に意地悪そうな顔をして笑って、その人は歩いて行ってしまった。



「…笑った…」


何故か、さっきの人の笑顔が頭から離れなくて、1人顔を赤くした。



「…次、いつ会えるのかな」




――END――



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