テイルズ短編

□狼少年
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「……これ…」


気がつけば手をのばしていた。

埃を被って色褪せた絵本。


「…『狼少年』」


ぱらぱらとページをめくると可愛らしい絵がずらりと列んでいた。

ふと目についたのは最後のページだった。


「ゼロス?」


声をかけられて振り返る。

眩しいくらいの赤が目に入る。


「それ、狼少年だっけ?」

「あぁ…。嘘つきな愚か者の話」


そっと最後のページをなぞれば、自然と口元に笑みが浮かんだ。


「嘘をつきすぎた少年は、最後は誰にも信じてもらえなくなりました」


淡い色褪せた色で描かれた、逃げ惑う村人と羊を食べられた少年。


「ほんと、自業自得すぎる。……まるで」


まるで、自分のようだ。


「ゼロス」

「!」


はっと視線をロイドに戻す。

眉を寄せ、苦い顔をしている。


「また変なこと考えてただろ」

「…全然?」


何が変なことか。

今だって、俺は嘘をつき続けているんだ。

わかってる。

いつか自分もこの絵本の中の少年のようになってしまうことくらい、わかってる。

嘘つき少年は自分で、逃げ惑う村人はロイド達。

嘘つき少年は、関係のない人まで巻き込んで、大切なものを失ってしまう。

…なら、俺が失うものは?


「ゼロス」


そっと絵本が奪い取られた。


「お前の嘘は、誰かを守るものだろう?」


ロイドの瞳の奥に、朱い髪の少女が見えた気がした。


「だから、誰も傷つかない」


大丈夫だ、そう聞こえた瞬間、足元は抜けて全てが落ちた。













―――−−‐‐


はっと目が覚めた。


「……なんつー夢…」


嘲笑が漏れる。


夢は、思考と心底で深く関係があるという。


「…『大丈夫だ』、か」


自分も心の奥底では、そう思っているというのか。

そんなのはただの驕りだ。

わかっている。

理解している筈だったのに。


「…気づいて、欲しい…」


誰か、この嘘に気づいて。

あの絵本の中の村人のように、嘘に慣れて、俺を信じないで。

そうすれば、きっと…。



息を吐いて、思考を止める。

駄目だ。

今さら、そんなことを願ったって無駄なことなくらい、理解している。


「そう、もう遅い」


もう、戻れないところまで来てしまった。



扉を開いて冷たい息を吸う。


最後の舞台は、救いの塔。


ここで、俺の嘘は終わりだ。

少年は羊を失って、俺はきっと全てを失う。

俺に、ありふれた終わりなんて似合わない。

あぁ、なんて自業自得。

でもこれが俺にとってのハッピーエンド。



そして、塔へと一歩踏み出した。







――END――




―――――――
気づいて欲しいゼロスと気づかないロイド。クラトスルートぷまい。


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