テイルズ短編

□異常者と常識と反比例
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「お前って、変だよな」


きっと、それは何気ない言葉だったのだろう。けれど咄嗟に言葉を返すことは出来なかった。

変とは、一体なんだろうか?普通でないこと?異常なこと?奇妙なこと?どれにも自分が当て嵌まりそうだが、否定も肯定も出来ない気がする。

誰かが勝手に普通を決めて、誰かがそれに従って、それに従わない者は『変』だと思われる。それが人にとっての『普通』なのか?

ならば、自分は変なのだろう。

『普通』ならば俺は生まれなかった筈。『普通』ならば赤い雪なんて見ることはない筈。『普通』ならば裏切るとわかっていながら友情ごっこなんかする訳がない筈。『普通』なら、…『普通』なら。

『普通』など、ヘドが出る言葉だとは思わないか?

枠組みに嵌められて本当の自分がわからない、なんて馬鹿なことを言いたい訳じゃない。たとえ異常だと言われても、これが自分だし、何を言われても変われるだなんて思ってはいない。

そうだ。あいつの言う『変』は、俺が生まれ落ちた時から纏わり付いているものだ。もう今更、どうすることも出来ないし、どうにかしようとも思わない。

なら、俺は一生こいつの言う『普通』にはなれないのだろう。

望まれぬ生を受け、母に呪われ、妹に憎まれ、それなのに今だのうのうと生きていて、これから仲間を裏切る自分など、どこをどう見ても『普通』なんかとは程遠い。

目の前の奴のようになど、なれない。

きっと、こんな俺は理解もされない。



(なんて、深く考え過ぎか)



そう思っても、口から零れたのは酷くチープで使い古された言葉だった。




「お前に何がわかるんだよ」




その言葉には、微量の期待が孕んでいるように感じられて、喉を引き裂きたくなった。

それでも、あいつの顔を少しでも歪ませられたことに笑ってやれば、その顔はさらに歪んだ。

あぁ、今の自分も歪んでいるのだろうか。



今更、もう手遅れだろうに。






――END――





(どれだけ論じても、この感情は消えてくれない)

(『理解して欲しい』、だなんて)





――――――
なれないと諦めているけど心のどこかでは『普通』に焦がれていて、存在を認めて欲しいゼロス。


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