テイルズ短編

□なんて言えない
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雷だ。

激しく窓を叩く音に混じってごろごろと聞こえた。


(こわいよ)


ただ唇が震えるだけで、言葉は出なかった。

また、窓の外が光る。


(こわいよ)


ベッドにうずくまるように座っている子供は音が聞こえる度に肩を震わせる。

シーツを掴む手に力が篭っているのか、その手は血が通っているのかと思うほど、白く冷たくなっていた。


「…ははうえ…ちちうえ…」


やっと出た声は酷く掠れたもので、雨の音で簡単に掻き消されてしまうほど小さかった。


「……は、はうえ…」


子供は温もりを求めるように体を抱き、音を消すために耳を塞いだ。


「―――…」


自分の声も、もう聞こえない。













視界が白く染まって目を開けた。

さっき見たものと同じような、でも少し違う景色が視界に写る。


「…かみなりだ」


部屋は違うが、窓を叩く雨の音も雷の音も同じだった。


「…ははうえ」


そして口から零れた言葉も、同じだった。

あの子供は、この後何を言おうとしていたのか。

震える手で、何を求めたのか。

いくら考えたって、答えは出ない。


「―――…」


確かに唇は動いているはずなのに、喉は震えているはずなのに、その声は聞こえない。

そっと、ベッドから冷たい床に足を下ろして、窓を開けた。

それと同時に雨が風と一緒に入ってきて、カーテンをはためかし、体を濡らす。

冷たさだけが嫌に感じられて、震える手を見た。

雷の光が肌を白く照らして、あの子供と姿がダブる。


「……て…」


ただなんとなく、今、あの言葉の続きを言わなくてはいけない気がした。

思い出さなくてはいけない気がした。

雫が体を伝う感覚も冷たい。


「……たす…け…」


でも、言ってはいけない言葉のような気もした。

言ったって、誰も来てはくれないと知ってしまっているから。

理解してしまっているから。

誰も、自分を安心させるために抱きしめてなどくれないと。


「……馬鹿みてぇ…」


頬を伝う雫が、雨なのかなんなのかは何故か理解できなかった。






――END――






――――――
助けてって言えないゼロス。


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