テイルズ短編
□君の見るもの。僕の見つめるもの
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デクアリ
――――――
ふと、昔のことを思い出した。
俺がまだ馬鹿で非力な子供で、あの子はまだ4才になってはいなかった頃だろうか。
あの頃は隣に居ることが普通で、当たり前だった。
今じゃあ、隣に居ることなんて出来やしなくて、ただその小さな背中を見てることしか出来なくなってしまった。
「なんでかな」
考えても答えは出ない。
あぁ、俺はまだ馬鹿が治ってはいないようだ。
「なんてアホ面してんのよ、3Kデクス」
耳障りのいい声が聞こえて顔を上げれば、すぐ目の前にその子は居た。
「アリスちゃん!」
「ちょ、近寄らないでよ。匂いが移るでしょ」
心底嫌そうに顔を歪めるアリスちゃん。
しっしっと手も動かしている。
「それで、何悩んでたのよ?」
急に真剣な顔をしたかと思えばそう聞いてきた。
「悩んでた、のかな」
「なによ、あんた。自分のことでしょ」
「もういいわ」と言ってアリスちゃんは背を向けてどこかへ行ってしまい、俺は1人その場に残された。
「なんでかな」
背中を見るのが辛い。
あんな小さい体で、いろんなものを背負っているかと思うと、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しい。
「あぁ、そうか」
こんなに辛いのは、苦しいのは、自分の無力さを思い知らされるからだ。
命を助けてもらって、守るって誓ったのに。
今だってあんな小さな体に全部抱え込ませて、助けてもらってばかりだ。
「さいてーだ、おれ」
あの子に、何もしてやれてないじゃないか。
ぐっと膝に顔を埋めていると、急に後ろの長い髪が強く引っ張られた。
「い…っ!」
「このバカデクス!やっぱり戻ってきて正解だったみたいね」
「アリスちゃん…」
アリスちゃんは少し偉そうに腕を組んで俺を見下ろす。
「あんたが何考えてんのかは知らないけどいつまでも私の前でそんな面してんじゃないわよ!」
「でも、俺」
「でもじゃないわ。いつ反論を認めたの!」
「ご、ごめんよ。アリスちゃん」
つい身を縮こまらせればアリスちゃんは少し動揺したように瞳を揺らがせた。
「デクスは、変わらないでよ」
なんで、そんな目で俺を見るのだろうか。
「デクスは、いつもみたいにしてなさいよ…!昔みたいに、」
ふいにアリスちゃんが言葉を詰まらせる。
なんで、アリスちゃんが泣きそうなんだろうか。
「アリスちゃん」と名前を呼びながら近づけば、今度は拒絶されなかった。
「ごめんね、アリスちゃん。俺、馬鹿だからさ。こういうときどうしたらいいのかわからないんだ…」
「…馬鹿。何もしなくていいわよ」
零れない涙が溜まった瞳でこちらを見る。
「…でも、傍に居て」
すぐに瞳は逸らされてしまったが、確かにその言葉は聞こえた。
「…うん。居るよ。アリスちゃん。君が言うなら、いつまでも、ずっと」
抱きしめさせてなんてくれないだろうから、手を握って笑うと「…馬鹿」とまた聞こえた。
「ほんと、俺馬鹿だね」
俺はただ、アリスちゃんが望むままに生きればいいのに、変に考えすぎてアリスちゃんを泣かせてしまうなんて。
でも、こんな馬鹿な俺に傍に居てとアリスちゃんは言てくれた。
「だから、大好きだよ。アリスちゃん」
あぁ、零れた。
雫は白い頬を伝って地面へ落ちた。
不思議とその雫を見て、ふっと心が軽くなった気がした。
――END――