ABYSS長編
□2話
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部屋へ入ればシュザンヌは優しい笑顔でルーク達を迎え、ティアを咎め、そして許した。
その様子を、ルークはどこかぼーっとしたように眺めた。
ルークはティアと共に部屋を出た。
するとメイドの一人が駆け寄ってきた。
「ルーク様。陛下がお呼びです」
ああ、ついにこの時が来てしまった。
どこか靄がかかったような意識の中、そう思った。
「ルークよ、親善大使になり、アグゼリュスに行ってはくれぬか?」
(…俺がアグゼリュスに行けば、また大勢の人々が死ぬ)
そしてまた、仲間達に見捨てられる。
嫌だ。
行きたくない。
ただ、その思いだけが心を占めていた。
(きっと、俺が行きたくないと言っても結果はかわらないんだ)
ルークが無言で俯いていると、しびれをきらしたようにインゴベルトはティアに呼びかけた。
「…ティア、そこの譜石を詠みなさい」
詠まなくたって、わかる。
1番大切な事は書いてないのだろう。
「ルーク、譜石にはお前がアグゼリュスへ向かう、と書かれているのだ。…もちろん、行ってくれるのだろう?」
(…ほら、やっぱり)
拒否権は無いんじゃないかと、なぜか苦しくなった。
「……」
それでも、何も言えなかった。
靄がかかった白い意識の中では同じ事ばかり考えてしまう。
ただ、怖い。
恐怖だ。
「…地下にヴァンを捕えてある」
「師匠、が…?」
優しく、ルーク自身を見てくれた、ヴァン。
いくら優しくても、ガイもナタリアもシュザンヌも、どこか前のルークと比べていた。
(…師匠だけ、だったんだ)
「…俺、行きます」
怖いけど。
「おお!そうか、行ってくれるかルークよ!後でヴァンのところへ行ってみるとよい」
俺、師匠の為に頑張るよ。
たとえ、俺が師匠の捨て駒でも平気だよ。
俺には師匠だけだから。
…平気、だよ。
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